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老ヴァーチュオーゾたちの最後の晴れ舞台。『Buena Vista Social Club』ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.2

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Buena Vista Social Club』Buena Vista Social Club(1997年)

老ヴァーチュオーゾたちの
最後の晴れ舞台。

夏の〈cheers pb〉という話をもらって、最初に頭に浮かんだのがこのアルバム。ゆったりした気持ちのいい曲のオンパレードで、古き佳きハバナの夏の風景がまぶたに浮かんできます。とはいえこのアルバムに出逢うまで、実は僕はキューバの音楽をまったくと言っていいほど聴いたことがありませんでした。ただプロデューサーがライ・クーダーだったから、聴いてみようと思えたんです。

そんなわけで、発表された1997年当時は僕のようなライ・クーダー好きが手に取ったくらいでそれほど話題にならなかったのだけれど、99年にヴィム・ヴェンダーズによる同名の音楽ドキュメンタリー映画が公開されるとアルバムにも火がつき、ワールド・ミュージックとしては稀有なほどの世界的な大ヒットとなりました。

このアルバムの制作過程には裏話があって、当初はアフリカのミュージシャンとキューバのミュージシャンのコラボレイション企画でした。でもアフリカのミュージシャンにヴィザが下りず、ドタキャンしてしまったんです。そこでライ・クーダーが以前からレコード店で聴いていた、キューバの過去に活動していたミュージシャンたちに連絡を取って、急遽、実現したのがこのアルバムでした。

とはいえ彼らは引退してからだいぶ経っていて、ヴォーカルのイブライム・フェレールは靴磨きを生業にしていたし、ピアノのルーベン・ゴンサレスは指が動かず、感覚が戻るのに少し時間がかかりました。それでも昔取った杵柄、セッションを繰り返すうちに見事に復活を遂げたんです。

このアルバムに関しては何よりも、ライ・クーダーの驚くべき音楽知識量が果たした役割が大きかったと思います。何年も前に引退した異国のミュージシャンのことを覚えている人はほかにいたのでしょうか。もう一つはライとヴィムの交友関係です。それによってドキュメンタリー映画が生まれ、あの愛すべきおじいさんたちに最高に幸せな時間がプレゼントされました。スクリーンの中の彼らの笑顔を観ていると、それだけで幸せな気分になれますから。

Buena Vista Social Club

side A-1:「Chan Chan」

キューバのヴォーカリスト、コンパイ・セグンドの代表作で、テンポといいメロディといい、このアルバムとキューバの夏の両方を象徴する一曲と言っていいでしょう。ドキュメンタリー映画の中でもとても効果的に使われているので、映像的な記憶とともに印象に残っている人も多いと思います。