作り手が自ら文学作品や雑誌、ZINEなどを手売りする〈文学フリマ〉。言葉を愛し、言葉を綴る、多くの人々が一堂に集うイベントだ。年々規模が拡大し、昨年11月に行われた前回の〈文学フリマ東京37〉は、1万人近くの来場者でにぎわった。5月19日(日)には、38回目となる〈文学フリマ東京38〉が開催された。
発売中のBRUTUS最新号「一行だけで。」には、短歌、詩、俳句、川柳、歌詞と、各ジャンルの第一線で活躍する言葉のプロフェッショナルたちが多数登場。〈文学フリマ東京38〉でも、取材した方々に出会うことができた。
この記事では、そんな〈文学フリマ東京38〉でBRUTUS編集部が買った本を紹介していく。
郡司和斗『遠い感』【編む】
短歌研究新人賞を受賞した、郡司和斗さんの第一歌集。“別に誰もみていないけど休載をしますと書いた九月のブログ”(「マヨネーズ色の祝日」より引用)。ちょっといじわるいところが好きです。(編集部T)
『VACANCES 第4号 待ちびらき』【DVD探知犬】
『BRUTUS』でも執筆しているライターの原航平さんと上垣内舜介さんが企画するカルチャーZINEの第4号。テーマは「待ちびらき」。漫画、エッセイ、インタビュー、小説に座談会と、バラエティ豊かで自由な構成が楽しい。(編集部M)
秋山ともす『バターロールがまた焦げている』【秋山ともす】
「2023年読売歌壇年間賞(俵万智 選)」を受賞した、秋山ともすさんの第一歌集。取るに足らないけど愛おしい出来事、新しい季節の予感にワクワクする気持ち……生活の中での心の機微を瑞々しく、丁寧に掬い取った、なんてことのない日常を愛おしく思える一冊。これから短歌を知りたい!という方にもおすすめしたい。(編集部S)
文画ポストカード【文画師 Gani】
遠目から見たら人物画ですが近づいてみると、その人物の文章で描かれているポストカード。まさに“一行だけ”では表現できない文字と絵に目を惹かれました!(編集部T)
浦桐創、由良ゆゝ子『noroi』【浦桐創と由良ゆゝ子】
リソグラフ印刷で装丁にもこだわった一冊。右からも左からも読める構造をした、この本の中で2人だからこそ生まれることばの連鎖が面白い。(編集部T)
橋爪志保『微差の生活 -100日の短歌と日記-』【平熱窓(橋爪志保のおみせ)】
短歌と日記で記された2023年8月3日からの11月10日までの100日間の記録。余白を残して描かれる31文字も素敵だけど、読み物としての日記もやっぱり良いなと再確認させてくれる一冊です。(編集部G)
『胎動短歌Collective vol.4』【胎動短歌会(胎動LABEL)】
文学フリマでおなじみ人気アンソロジー胎動短歌のvol.4。歌人ではなく、詩人、俳人、ミュージシャンとして活動している方の短歌が読めるのも魅力。他の号も見逃せません。(編集部T)
藤岡みなみ『時間旅行者の日記』【タイムトラベル専門書店】
1月1日から12月31日までの日記だが、日付によって年齢は0歳から35歳までバラバラ。2000年4月8日14歳の日記の次には、2021年4月9日32歳の日記、その次には2023年4月10日34歳の日記が並ぶ。近年、様々な日記本が出る中でも、異色の作品。(編集部M)
『路上の話』【浮遊結社】
路上観察学を知った2人による、2021年の路上の話。普段は気にも留めずに見過ごしている街の風景でも、たった一行の言葉だけで、あなたがまだ気づいていない街の一面に出合えるかも。(編集部G)
那須良識『きっと明日使える短歌用ワード集』【那須良識】
作者の思う「短歌に使われなさそうな言葉」を集めた本。単語や短いフレーズの羅列だが、言葉の選び方や並べ方が面白く、すでに詩になっていて面白い。眺めているだけで作者の生活が見えてくる気もする。(編集部M)
田中くるみ、安藤美由、カニエ・ナハ、小磯洋光、青柳菜摘、北川光恵『SKETCH VOICE』
〈コ本や honkbooks〉のブースで販売されていたのは空のカセットテープ。会場内の4つのブースをまわって、出店者たちに言葉を吹き込んでもらい、世界に一つしかないカセットテープが完成した。(編集部M)
今回の文学フリマも大盛況で幕を閉じた。言葉を愛する人がいる限り、新たな表現は必ず生まれ続ける。今回紹介した作り手たちが切り開いていくであろう、瑞々しい言葉の世界を楽しみにしたい。
奥野紗世子『女たち』