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ブルータス時計ブランド学 Vol.75〈キングセイコー〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第75回は〈キングセイコー〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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現代に復活を果たしたセイコー腕時計の王

〈セイコー〉の時計製作技術は戦後、2つの製造拠点が互いに切磋琢磨したことで、急速な発展を遂げた。1つは東京・亀戸の第二精工舎。同社が戦時中に長野・諏訪に疎開したことで、諏訪精工舎が新たに設立された。

第二精工舎は空襲でほぼ壊滅状態になったため、技術力で先行したのは諏訪精工舎だった。一方の第二精工舎も、工場再建後は負けじと開発を進めた。そして1960年、諏訪精工舎で「グランドセイコー」が誕生。その翌年に第二精工舎で産声を上げたのが、「キングセイコー」である。

フラットなダイヤルに、シャープでエッジの利いた針と、太く存在感が強いインデックスを配した初代「キングセイコー」のデザインは、当時としてはかなりモダンで、かつセイコー腕時計の“王”にふさわしい風格を兼ね備えていた。

1964年には「グランドセイコー」と並び、クロノメーター準拠の高精度を誇る第2世代が登場。その量産ムーブメントに秒針規正(停止)装置を追加した愛称「KSK」は、太く力強いラグと、よりシャープな造形のケース、12時インデックスに施した〈セイコー〉がライターカットと呼ぶ装飾など、上質な外装を兼ね備えていた。

その後も1968年に、毎秒10振動のハイビートムーブメントが搭載され、1972年には大胆にファセットカットしたケースにカラーダイヤルを組みわせた「VANAC」が登場するなど、「キングセイコー」は、機械と外装の両面で高級機としての進化を遂げていった。しかし70年代半ば、〈セイコー〉が完全にクォーツムーブメントに軸足を移したため、いったんその役割を終えることとなる。

しかし2000年、2021年に「キングセイコー」復刻限定モデルが登場。そして満を持して2022年、レギュラーモデルとして帰還を果たした。

【Signature:名作】SDKA005

「KSK」をなぞらえながら、より実用的にアップデート

〈キングセイコー〉SDKA005


2022年、「キングセイコー」復活に際し、外観の手本としたのは、1965年に誕生した「KSK」だった。さらに翌年リリースされた本作では、オリジナルにはなかったデイトが追加され、実用性を高めた。

12時インデックスのライターカットや太めのラグ、フラットなケースなどは1965年当時にかなり忠実で、レトロな印象である。薄型自動巻き搭載により、ケース厚は10.7mmに抑えられ、小径であることも相まって取り扱いやすい。やや角張った7連ブレスレットも、現代版からの仕様。これもまた、レトロな雰囲気だ。

径38.6mm。自動巻き。SSケース。418,000円

【New:新作】SDKV001

大胆なフォルムをまとう1970年代スタイルが再来

〈キングセイコー〉SDKV001

1970年代は、時計界においては実験的デザインの時代だった。「キングセイコー」も例外ではなく、前述した多面カットケース&カラーダイヤルの「VANAC」を生み出している。そのコンセプトが、現代に蘇った。

新生「VANAC」が表現しようと試みたのは、東京に広がる地平線をイメージした“Tokyo Horizon”である。金属の塊から削り出したかのようなケースのフォルムが実に力強く、ダイヤルは横縞の型打ちと色とで、地平線の上に広がる青空と太陽とを表現。レトロモダンなスポーツウォッチが、コレクションに加わった。

径41mm。自動巻き。SSケース。396,000円

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