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ブルータス時計ブランド学 Vol.74〈タサキ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第74回は〈タサキ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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パールで培った感性で高級時計を創造

2009年に改称するまで、〈田崎真珠〉の名で知られていた。〈TASAKI〉は、真珠の養殖から加工・デザインまで一貫して自社で行い、さらにダイヤモンドの質とカット技術にも秀でる日本を代表するジュエラーである。

欧州の多くのジュエラーが早くから時計市場に参入してきたように、ここもオリジナルのタイムピースの構想を長く温めてきた。そして2015年、満を持して初のウォッチコレクション「オデッサ」が誕生。そのフラッグシップとしたモデルは、パールにホワイトゴールドを象嵌し、月の満ち欠けを表現したムーンフェイズとトゥールビヨンが備わっていた。

同コレクションのコンセプトの1つは、“ジャパン・メイド”。ラインナップする他のモデルも、すべて日本製のムーブメントを搭載する。そしてダイヤルにマザー・オブ・パールを配することで、〈タサキ〉らしさを主張している。

その誕生から3年後、「TASAKI TIMEPIECES」は、さらなる高みを目指し、スイスの高級ムーブメント会社「ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ」(以下、ヴォーシェ社)と提携。機構はシンプルではあるが、機能と美観を兼ね備えた高性能なオリジナルキャリバーが新コレクション「バランス」に搭載された。

「バランス」は、ジャパン・メイドを掲げた「オデッサ」とは逆に、スイス・メイドのコレクションとなった。むろんそのデザインは〈タサキ〉オリジナルである。日本の感性がスイスの技術で形になった。

【Signature:名作】バランス WAC 0086

幾何学的な美を織り成す薄型ドレスウォッチ

TASAKI バランス WAC 0086


円と直線とを組み合わせた外観は、その名の通りバランスボールから着想を得たという。まず真一文字のゴールドの上にパールを寄り添うように並べたジュエリーとしてコレクションは生まれ、その幾何学的な美観が腕時計に受け継がれた。

直線のラグと丸いベゼルとの接地面は、100分の1mm単位で根気よく微調整を繰り返し、絶妙な“バランス”がかなえられている。ケース素材は、PGよりも色が淡い独自の18金。6.85mmと厚みを抑えたサクラ色の外観は、実にエレガントである。控えめな美しさが、日本人の感性に響く。

径39.5mm。自動巻き。18K SAKURA ゴールドケース。2,750,000円。

【New:新作】フェイス オブ タサキ WAC 0122

ミニマルな外観に仕掛けた機械的遊び心

フェイス オブ タサキ WAC 0122

ブランド初のレクタンギュラーは、原点である真珠の養殖場のイカダをモチーフとする。マザー・オブ・パールを配したダイヤルの時分針の下にある丸い部分は、実は自動巻きローターで、クルクルと回転する様子を海に浮かぶパールに見立てた。

このユニークな意匠と機構は、スイス時計デザイン界の奇才フィオナ・クルーガーによる。ミニマルの外界とは対照的な、クリエイティブな仕掛けが楽しい。ストラップ素材は、植物由来。

縦35.6×横24mm。自動巻き。SSケース。3,575,000円。

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