ブルータス時計ブランド学 Vol.80〈モバード〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第80回は〈モバード〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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メカニズムとデザインの両面で、異彩を放つ

1881年、弱冠19歳の起業家アシール・ディーテシャイムは、スイスのラ・ショー・ド・フォンに時計工房を開き、6名の職人を雇い入れた。彼らはいずれも腕利きであり、すぐに技術力に優れた時計メーカーへと成長を果たす。そして1905年、社名をエスペラント語で“たゆまぬ前進”の意味を持つ〈モバード〉に変更。その名にふさわしく、数々の特許技術を確立していく。

中でもユニークだったのが、1912年に誕生した「ポリプラン」。腕に沿うようカーブさせた縦長の角形ケースに合わせ、ムーブメントを屈折した3面構造としていたのだ。また1935年には腕時計の防水化に、1945年には自動巻き化にいち早く成功。時計に付加機能を与えるモジュールも得意とし、1946年には日・曜日・月の各表示とムーンフェイズが備わるコンプリートカレンダー機構を自動巻きムーブメントで実現してみせた。

そして1947年、今日まで続くメゾンのアイコンが誕生する。ダイヤル12時位置に黄金色のドットだけが備わる、「ミュージアム ウォッチ」である。そのデザインは、バウハウスの旗手ネイサン・ジョージ・ホーウィット。彼は時計の原点である日時計から着想を得て、黄金色のドットで正午の太陽を表現したのだ。ミニマルかつ美しいデザインはMoMAに認められ、1960年に永久コレクションに選ばれた。

1969年から〈モバード〉は〈ゼニス〉と合弁・協業となったため、自動巻きクロノグラフの傑作「エル・プリメロ」搭載がかなった。そして83年、ノース アメリカン ウォッチ コーポレーション傘下となった〈モバード〉は、デザイン性に重きを置きながら、同時に自身のヘリテージに目を向けたコレクションも展開。さらに宝飾界にも進出を果たし、新たな美を創造し続けている。

【Signature:名作】ミュージアム・クラシック ゴールド

MoMAに選ばれた、傑作デザインを継承


漆黒のダイヤルに、黄金色のドットと時分針だけを配したミニマルなデザインは、ネイサン・ジョージ・ホーウィットが描いたデッサンそのままである。彼は複数の時計メーカーに売り込んだが、1947年当時、あまりに斬新すぎたため断られ続けたとか。その価値に唯一気付いたのが〈モバード〉だった。

ベゼルとラグをスリムに、リューズを小さくしているのは、ダイヤルデザインを際立たせるため。オリジナルは手巻きだったムーブメントをクォーツ、18金製だったケースとドット、針をSS×PVDに改めることで、傑作デザインが身近な価格になった。

径40mm。クォーツ。SSケース。132,000円

【New:新作】オンドプラン

時代を先駆けた1970年代の名作が蘇る

1970年代に〈モバード〉は、トランジスタの電気振動を用いた音叉で調速する革新的なムーブメントを搭載した「エレクトロニック・サーフ」をリリースした。そのデザインを受け継ぎ、新たに誕生したのが本作である。

ケースとブレスレットの滑らかな一体感が図られているのが、いかにも70年代テイスト。グラデーションを掛けたブルーダイヤルも、レトロな雰囲気を醸し出している。フルーテッドベゼルもオリジナルと同じで、スポーティな外観にエレガントな印象を添える。

径36mm。クォーツ。SSケース。167,200円

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