ブルータス時計ブランド学 Vol.79〈ラルフ ローレン〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第79回は〈ラルフ ローレン〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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ファッションブランドの領域を超えた、真の高級時計

現代アメリカを代表するブランドの一つ、〈ラルフ ローレン〉の創業者にしてデザイナーである本人は、ヴィンテージ時計の熱心なコレクターという顔も持ち、自身が理想とする時計をコレクションに加えたい、と長く切望していた。

その積年の夢に手を貸したのが、〈カルティエ〉などを擁するリシュモン グループの総帥ヨハン・ルパートであった。2007年、二人はジュネーブに合弁会社〈ラルフ ローレン ウォッチ アンド ジュエリー カンパニー〉を設立。その2年後に初のウォッチコレクションが、ジュネーブの新作時計発表会SIHH(当時)でお披露目された。

ドレスウォッチの「スリムクラシック」、大型ケースの「スポーティング」、馬具の鐙を模した「スティラップ」から成る初作のコレクションは、いずれもリシュモン傘下のピアジェとジャガー・ルクルト、IWCのムーブメントを搭載した、高級機械式時計であった。さらにダイヤルやケースのディテールには、デザイナーであり時計マニアの本人ならではの気配りが利き、エレガントな装いをかなえていた。

それらの完成度の高さはセンセーションを巻き起こし、時計ファンの心をわしづかみにした。その後も、外装においては木製ダイヤルやベゼル、ケース全体にアメリカ伝統のハンドエングレービングを施すといった独創性を発揮。またグループ外のムーブメント会社との協業で、ダブル・トゥールビヨンやミニッツリピーターといった複雑機構も実現している。

SIHHが終幕となり、また直営ブティックだけでの展開となったため目にする機会は多くないが、〈ラルフ ローレン〉の時計には、目利きも一目を置く名作がいくつも揃っている。

【Signature:名作】42MM クロノグラフ スティールウッドベゼル

モチーフはヴィンテージカーのステアリング

42MM クロノグラフ スティールウッドベゼル


ラルフ・ローレン本人は、ヴィンテージカーのコレクターでもある。そんな彼の自動車への愛と美学から生まれた、「オートモーティブ」コレクションからの一本。ビス留めされた手作りの木製ベゼルは、自身が所有する1938年型ブガッティ・タイプ57SC アトランティーク・クーペのステアリングホイールがモチーフである。

30分と12時間積算計による2カウンタークロノグラフは、ジャガー・ルクルトによる専用設計ムーブメントによってかなえられた。デイトがないのは、ヴィンテージ時計ファンらしさの表れである。

径42mm。自動巻き。SSケース。1,265,000円

【New:新作】ヴィンテージ67 ブラックダイヤル

1920~30年代の腕時計をオマージュ

ヴィンテージ67 ブラックダイヤル

ケースサイドに切り欠きを設け、大型のリューズをセット。ベゼルにはステップを与え、ダイヤルには線路型分目盛と大ぶりなアラビア数字を配する。これら特徴的なディテールは、腕時計の黄金期とも呼ばれる1920~30年代のモデルからの引用である。

スモールセコンドのインダイヤル内には、同心円状のアズール仕上げを施すなど、造作にも凝る。コレクション名通りの上質なヴィンテージ感は、〈ラルフ ローレン〉のファッションにも相通じ、ファンには馴染み深いだろう。世代を超えて受け継がれる、腕時計の普遍の美を提示した。

径40mm。手巻き。SSケース。524,700円

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