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ブルータス時計ブランド学 Vol.78〈ポルシェデザイン〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第78回は〈ポルシェデザイン〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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バウハウスの理念を継ぐ、機能的で先進的なデザイン

〈ポルシェデザイン〉はその名の通り、ドイツの自動車メーカー〈ポルシェSE〉傘下のデザインスタジオである。ポルシェ911のデザインを手掛けたフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(F.A.ポルシェ)によって、独立企業としてポルシェ デザイン・スタジオの名で1972年に創業。

初作は、ポルシェから依頼された、社の功労者や上顧客に贈呈するためのクロノグラフであった。そのモデル「クロノグラフ1」は、ダイヤルに加えケースとブレスレットもブラックに仕立てた初の腕時計として、時計界にセンセーションを巻き起こした。

その後、メガネやバッグ、筆記具など多彩な男性向けプロダクトを〈ポルシェデザイン〉銘で展開。1978年にはスイスのドイツ語圏に位置する〈IWC〉と提携し、時計市場に本格的に参入を果たした。同社との協業によるファーストモデル「コンパスウォッチ」は、ケースを持ち上げると方位磁針が現れる仕組み。磁針に干渉しないよう、ケースはアルミニウム製だった。

そして1980年、ケースに加えてブレスレットまで初めてチタン製とした「チタニウム・クロノグラフ」が誕生。この経験を生かし、後に2000mもの防水性能が備わるダイバーズウォッチの傑作「オーシャン2000」を生み出した。

1997年に〈IWC〉との提携を解消。スイスの時計メーカー〈エテルナ〉を買収することで、バウハウスの理念に基づいた、機能的で美しい時計を世に送り出してきた。2004年、F.A.ポルシェ引退に伴い〈ポルシェAG〉の子会社となり、2014年には〈エテルナ〉を売却した。以降、時計の内製化を推進。時計デザインの重要性をいち早く説いた、F.A.ポルシェの機能的かつ先進的、というコンセプトを今も継承し続けている。

【Signature:名作】クロノグラフ1 - オールブラック ナンバード・エディション

初作にして傑作のクロノグラフを再解釈

クロノグラフ1 - オールブラック ナンバード・エディション


オールブラックの外観や、黒を背景に白とレッドで針やインデックスが浮き立つ視認性に優れたダイヤル構成は、1972年に誕生した初作「クロノグラフ1」からの引用である。デイデイトが備わっているのも、当時と同じ。オリジナルのデザインを丁寧に受け継ぎながら、外装素材をSSから1980年に実現したオールチタンへとアップデート。

硬質なカーバイド・コーティングで、オールブラックを再現した。38mmだったケース径も、現代的に拡大されている。「ポルシェ911」のダッシュボード・メーターに範を採ったダイヤルデザインは、50年以上を経た今も古びていない。

径40.8mm。自動巻き。チタンケース。1,815,000円

【New:新作】クロノグラフ1 - ユーティリティ リミテッド・エディション

先進の素材で蘇った真のミリタリークロノ

クロノグラフ1 - ユーティリティ リミテッド・エディション

1970年代にNATO軍に正式採用された「ミリタリー・クロノグラフ」の姿が、現代に蘇った。やや異質なグレーのケースも、当時の色味に近い。しかしオリジナルがSSにPVDで色付けしていたのに対し、本作ではチタンの表面を炭化させることで硬化させた、チタニウム・カーバイドを採用。セラミックと同等の硬度が備わり、耐傷性は極めて高い。

クロノグラフを作動させたままリセットできる、フライバック機構を装備。ストラップを引き通してケースの背面を覆い、極度の低温下でも手首を保護するバンドゥストラップも当時のデザインのまま復刻した。世界限定250本。

径42.7mm。自動巻き。チタニウム・カーバイトケース。2,530,000円。

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