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ブルータス時計ブランド学 Vol.76〈ティファニー〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第76回は〈ティファニー〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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アメリカの時計の歴史を刻み続ける

オードリー・ヘプバーン主演の映画でもその名が冠される〈ティファニー〉は、アメリカを代表するジュエラーである。時計との関わりも深く、創業から10年後の1847年には時計販売をスタート。1851年には米国における〈パテック フィリップ〉最初の公式小売りパートナーになり、その関係性は今日まで継続されている。

1853年には、ニューヨーク本店に「アトラスクロック」を設置。市民の標準時計としての役割を果たし、その時を刻んできた。また1866年にアメリカ初のクロノグラフ「ティファニー タイマー」を生み出すなど、オリジナルウォッチ製作の経験も長い。そして1874年、スイス・ジュネーブに時計専業のファクトリーを設立。今に続く、時計のデザインはニューヨーク、製作はスイスという体制が確立された。

ここが懐中時計の時代から優れたウォッチブランドでもあったことは、ヴィンテージ時計ファンにはよく知られた事実である。腕時計に移行してからも、アール・デコを時計デザインにいち早く導入するなどオリジナリティを発揮。1945年のヤルタ会談に列席したフランクリン・D・ルーズベルト米大統領の腕には、彼のために製作されたカレンダーウォッチがあった。20世紀、〈ティファニー〉ウォッチは、アメリカの象徴でもあったのだ。

21世紀に入り、時計業界再編の動きに一時翻弄されるも、2013年には「ティファニー スイス ウォッチ カンパニー」を設立し、時計の生産体制を再構築。以来、再び真摯に時計製作に臨んできた。今年7月に開業した〈ティファニー 銀座〉では、トゥールビヨン搭載のハイジュエリーウォッチが話題に。宝飾技術と時計製作技術の融合が〈ティファニー〉の真骨頂だ。

【Signature:名作】ユニオン スクエア 27mm メカニカル ウォッチ

1920年代製モデルを現代に再解釈


4方向にファセットカットを施したスクエアケースの造形は、時計界でアール・デコを先駆けた1920年代製モデルからの引用である。創業180周年を迎えた2017年に誕生した「ティファニー スクエア」が、モデル名と装いを刷新。それに伴い新たに設計されたブレスレットは上下の付け根でTを、針はNYの摩天楼をそれぞれ象った。

ダイヤルをティファニー ブルーに染め上げたことで、一層アイコニックになった。モダンな雰囲気である一方、線路型分目盛とアラビア数字の書体は、1920年代のオリジナルに範を取り、適度なレトロ感を漂わせている。

幅27mm。自動巻き。SSケース。742,500円

【New:新作】ティファニー アトラス 38MM 自動巻きウォッチ

NY本店を飾る公共時計のデザインを腕に

1853年からNY本店の象徴であり続ける「アトラス クロック」は、1983年、腕時計として発表された。それが今年、ティファニー ブルーをまとって装いを新たにした。

特徴的なローマンインデックスはそのまま継承するも、凹状のエンボス仕立てに刷新。ダイヤルも最外周に傾斜を与え、また仕上げの違いで視覚的に3分割した。これは1930年代に多用されたセクターダイヤルの再解釈といえよう。意匠的にはレトロではあるが、カラーリングで見事にモダナイズしてみせた。

径38mm。自動巻き。SSケース。720,500円

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