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ブルータス時計ブランド学 Vol.73〈ルイ モネ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第73回は〈ルイ モネ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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19世紀の天才時計師の名を冠し、独創性を発揮する

2012年に見付かった懐中時計「コンター・ドゥ・ティエルス」は、時計の歴史を書き換える世紀の大発見であった。なぜなら12時位置のボタンを押すとダイヤル中央の針が1周1秒で高速運針し、ボタンを離すと停止して、もう一つのボタンを押すと0位置に戻る仕組みになっていたからだ。

1816年に完成した、との記録が残るこの時計は慎重な調査の結果、世界初のクロノグラフと認定された。さらに言えば、毎秒60振動という超ハイビートも先駆けて実現していた。創造主は、ルーヴル美術館の美術アカデミーの教授を経て、1800年から時計製作に専従したルイ・モネ。かの天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲとも親交が深く、切削琢磨した仲だったという。

その発見に10年先駆け、天才ルイ・モネの名はスイスのサン・ブレーズに拠点を置く独立した時計ブランドの名として蘇っていた。忘れ去られていた偉大な時計師の名を掘り起こしたのは、輸入商社でさまざまな時計ブランドの復興に尽力してきたジャン=マリー・シャラー。彼はまず、アーティストでもあったルイ・モネに敬意を称し、造形や装飾に凝った腕時計を世に送り出した。

やがてオートマタに代表される複雑機構にも着手し、世界初のクロノグラフが発見されたことをきっかけに「メカニカル ワンダーズ コレクション」を展開して、同機構に傾倒していく。さらにルイ・モネが得意としていた天文時計を再解釈し、隕石ダイヤルや宇宙船をモチーフとした「コズミック アート コレクション」でも注目されるようになる。

機構的にもオートマタやクロノグラフに加え、かつて“天文”の意味で使われていたトゥールビヨンを数多くラインナップ。いずれのモデルもユニークピースもしくは数量限定であり、さらにオーダーメイドにも応え、熱心な時計愛好家の心をつかむ。

【Signature:名作】ジャパン メテオライト

日本に飛来した隕石がスイス製時計を華やぐ

ジャパン メテオライト

テンプの動きをダイヤルに露にする反転式ムーブメントとオフセットダイヤル、そして右上に備わる20秒毎に帰零するレトログラード秒針を特徴とする「テンポグラフ」は、メゾンのアイコンの1つであり、これまでさまざまな素材で表現されてきた。

その最新作は、生産数わずか12本という日本限定モデル。さまざまな色や質感が入り交じったオフセットダイヤルの正体は、1850年に岩手県陸前高田市気仙町に飛来した隕石である。この気仙隕石が、時計に使われるのは初。宇宙(コズミック)由来の素材の左側では、20秒レトログラードの機構を覗かせ、メカニズムを意匠の一部に取り込んだ。

径40.7mm。自動巻き。チタンケース。6,600,000円。

【New:新作】1816

世界初のクロノグラフにオマージュを捧げる

1816

ややイレギュラーなインダイヤルのレイアウトは、時計師ルイ・モネが天体観測のために製作した世界初のクロノグラフ「コンター・ドゥ・ティエルス」からの引用である。ダイヤル外周を取り囲む線路型秒目盛りも、1816年当時と同じ。

時計史に輝く偉大なる発明をオマージュしたダイヤルの下には、新開発の自社製クロノグラフCal.LM1816が潜む。そしてメゾン初のブレスレットを組み合わせることで、古典をモダンかつスポーティに仕立て直した。裏蓋側に覗かせるクロノグラフムーブメントの構造美も、見応え十分。

径40.6mm。手巻き。チタンケース。6,930,000円。

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