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ブルータス時計ブランド学 Vol.72〈クロノスイス〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第72回は〈クロノスイス〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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機械式時計の未来を信じ、古典を再解釈

ブランド名に「スイス」を冠するが、創業の地はドイツ・ミュンヘンであった。まだクォーツショックのさ中にあった1983年、機械式時計の復興を信じたドイツ人時計師ゲルト・リュディガー・ラングは、自らが理想とする時計を製作しようと〈クロノスイス〉を設立した。その名には、機械式時計の発展に大きく寄与してきたスイスの時計職人たちへの敬意が込められている。

初作は、デイトとムーンフェイズが備わるクロノグラフ。ラングは、機械式ムーブメントの構造美を白日の下とするため、このモデルで他社に先駆けトランスパレント・ケースバックを採用した。1988年には、腕時計では初となる時・分・秒の各針が独立したレギュレーターを発表し、大きな話題となった。

この時、フルーテッドベゼル、ストレートなラグ、大型のオニオン型リューズといった、その後に続く象徴的なスタイルを確立。ベースムーブメントには、ラング自身がスイスで買い付けた1970年代に製作されたエニカ社製のニュー・オールド・ストックを採用。その後もクロノグラフの名機ヴァルジューCal.72や同Cal.23の在庫をスイスで発見し、それらをモデファイしたモデルでも話題をさらった。

スイスの時計師が遺した機構・機械を蘇らせ、ギョーシェやエナメルといった伝統的な工芸技術も好んで用い、上質でクラシカルな外観に仕立てた〈クロノスイス〉の時計は、どれもマニア好みであった。しかしそれは同時にマイノリティでもあり、時計市場における嗜好の変化に対応することができず、2012年には経営権をスイスのオリバー・エブシュテインに売却することとなった。同社はラングが確立したスタイルを踏襲しながら、華やかな色や立体的な造形でモダナイズすることで〈クロノスイス〉の未来を開いている。

【Signature:名作】オーパス クロノグラフ

伝統にのとったクラシカル・スケルトン

デルフィス ファイヤースターター

〈クロノスイス〉は、スケルトン技術も1995年からの経験を持つ。近年、他社ではスケルトンを前提として設計されるムーブメントが多いが、このモデルは、既存ムーブメントに手作業でスケルトンを施すという伝統的な技法を踏襲。4つのインダイヤルが備わるダイヤルも最大限開口し、テンプや脱進機の動きを表から覗かせている。

フレーム状に残された地板には、ペルラージュ装飾が見て取れ、審美性にも優れる。フルーテッドベゼルをはじめ創業者ラングが確立したケースのスタイルとも相まって、クラシカルで見目麗しきクロノグラフに仕立て上がった。

径41mm。自動巻き。SSケース。2,794,000円。

【New:新作】デルフィス ファイアースターター

燃え上がる炎のように、真紅に染まる

オーパス クロノグラフ

1996年に誕生したジャンピングアワー+レトログラードミニッツが備わる「デルフィス」の新作は、鮮烈なレッドに装った。真紅のケースはチタンで形作った後、液化した高性能複合樹脂ITR2に浸して硬化させ、切削加工することで生み出される。

ダイヤル上部はギョーシェを透かし見せる伝統的なエナメル技法フランケで、燃え盛る炎を表現。そしてブリッジ状に仕立てたダイヤル下部では、赤×白のディスクをスモールセコンド代わりとした。優れた技術力と生産力とを持つムーブメント会社ラ・ジュー・ペレと協業した自社開発Cal.C.6004を搭載し、世界限定50本。

径42mm。自動巻き。チタン+ITR2ケース。7,975,000円。

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