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ブルータス時計ブランド学 Vol.70〈アンジェラス〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第70回は〈アンジェラス〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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現代に再生した、複雑機構とクロノグラフの名門

熱心なヴィンテージ時計愛好家の間で〈アンジェラス〉は、クロノグラフの優れた作り手として知られていた。また同社の8日巻きムーブメントは1955年当時、イタリア海軍向けのミッションウォッチだけを製作していた〈パネライ〉に採用され、そのデッドストックを搭載した限定モデルが2006年にリリースされたことで、〈アンジェラス〉の名を知った時計ファンも多い。

1891年、アルベルトとグスタフ・シュトルツ兄弟によりスイス、ル・ロックルで創業。7年後に三男チャールズが参画し、本格的にムーブメント開発をスタートさせた。才能に恵まれていた彼らが製作した懐中時計は、1902年にパリ万博で金メダルを受賞したことを皮切りに、いくつもの博覧会で輝かしい実績を残していく。

1925年には、リューズに統合したボタンで操作するクロノグラフ腕時計をリリース。以降、日付表示付クロノグラフ、アラーム&デイト付き腕時計といった世界初の機構を実現していった。複雑機構であるリピーターの自動巻き化に初めて成功したのも〈アンジェラス〉であった。しかし1970年代にスイス時計業界を襲ったクォーツショックにより、ブランドは休眠状態に陥る。

2011年、ムーブメント会社「ラ・ジュー・ペレ」が、かつての名門の復活に手を差し伸べた。翌年、同社をシチズンが買収し、〈アンジェラス〉も同じ傘の下で再出発を図ることとなる。そして2015年、新生〈アンジェラス〉のファーストモデル「U10 トゥールビヨン・ルミエール」を発表。以降、大胆なスタイルのトゥールビヨン・ウォッチをリリースしてきた。さらに2022年からはクロノグラフもラインナップに加わり、クォーツショック以前と変わらない栄誉の歴史が再び開かれた。

【Signature:名作】クロノデイト チタン ストームブルー エディション

メゾンの歴史を語るレトロモダンなクロノグラフ

クロノデイト チタン ストームブルー エディション


1942年に誕生した2カウンター+ポインターデイトのクロノグラフを再現。モジュール構造のケースはエッジが利いた現代的な造作であり、レトロなダイヤルとの対比で個性を主張する。ムーブメントを収めるミドルケースとプッシュボタンはカーボン複合材製。それ以外のケースパーツにはチタンを用い、軽く屈強な外装を作り上げた。

トランスパレントバックを採用し、そこから見える自動巻きローターは、ベルを連想させる巨大なAを象ったアンジェラスの過去のデザインを復刻した。クロノグラフ機構は、伝統的な水平クラッチ+コラムホイール式。

径42.5mm。自動巻き。チタンケース。付け替え可能ラバーストラップ付属。4,400,000円。

【New:新作】クロノグラフ テレメーター

古典的な美をまとったワンプッシュクロノ

クロノグラフ テレメーター

ケースは37mmと小ぶりで、グッと寄り目の2カウンターというノスタルジックなクロノグラフの構成は、1940年代後半に製作したハンガリー空軍向けモデルをモチーフとする。オリジナルは一般的な2ボタン式だったが、本作ではリューズ同軸のワンプッシュに改め、よりクラシカルな仕立てとなった。

そのダイヤル外周には、目視した光と音の到達時間の差から距離を測定できる、テレメーターを表記。ブロンズを帯びたピンクのカラーリングも、雰囲気がある。限定25本。

径37mm。手巻き。SSケース。3,520,000円。

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