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ブルータス時計ブランド学 Vol.64〈ユンハンス〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第64回は〈ユンハンス〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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ドイツ製らしい高品質と機能美の融合を追求

30近くの時計ブランドが存在するドイツは、スイスに継ぐ時計大国である。1861年に創業した〈ユンハンス〉は、その礎を築いた一社。まず掛け時計メーカーとしてスタートし、やがて懐中時計製作に着手。いち早く合理的な生産方式を導入し、1903年には3000人余りの従業員を擁し、年間300万個もの時計を生産する世界最大の時計メーカーへと成長を果たしている。

1930年代には腕時計市場にも進出。高品質で高精度な自社製機械式ムーブメントを世に送り出してきた。と同時に、電子技術でも時計界を先駆けた。1955年には電気式置き時計を、1970年にはドイツ製初のクオーツ式腕時計を開発。さらに原子時計を基準にした標準電波を受信して、時刻を自動で修正する電波時計を発明したのも〈ユンハンス〉であった。まず1985年に世界初の電波式テーブルクロックを発表。その5年後には腕時計でも電波式を実現してみせた。

これらドイツ時計産業を牽引してきた、さまざまな技術革新以上に〈ユンハンス〉が時計ファンを魅了してきたのは、優れたデザイン性にあった。1950年代初頭、同社はバウハウス最後の巨匠と称されるマックス・ビルに時計のデザインを依頼。1956年に完成した「ウォールクロック」は、後にMoMAの永久所蔵品にも選ばれ、彼の代表作の1つとなった。さらに1961年にはミニマルな機能美を追求した腕時計を、マックス・ビルは〈ユンハンス〉に提供している。

これらマックス・ビル作品は今もブランドの象徴であり、ロングセラーを続けている。他のラインナップも、機能美を大前提としたシンプルなデザインを得意とする。世界に先駆けた電波時計の種類も、豊富。ドイツ製らしい高品質を、手が届く価格で〈ユンハンス〉は提供する。

【Signature:名作】マックス・ビル by ユンハンス ハンドワインド

バウハウスの精神を受け継ぐ、時計デザインの金字塔

1961年にマックス・ビルが起こしたデザイン画を忠実に受け継ぐ、ブランドのアイコンにしてロングセラーモデルである。ダイヤルは、傾けても全体像が見やすいドーム状に。時分針の長さを大きく変えることで判別を容易とし、時針はアラビア数字の中心を、分針なバーインデックスの内側終端を、それぞれ正確に指すよう綿密に長さが計算されている。

シンプルではあるが、ダイヤルに一切の間延びを感じさせないバランス感覚は、後の時計デザインに大きな影響を与えた。ムーブメントは、信頼性が高い汎用の手巻きを搭載することで、名作デザインを身近な価格とした。

径34mm。手巻き。SSケース。202,400円。

【New:新作】マックス・ビル クロノスコープ バウハウス

バウハウスにちなみ、黒に染まった名作クロノグラフ

ユンハンス 新作の時計

マックス・ビルのデザインをベースに開発されたスタイリッシュな縦2つ目クロノグラフを、オールブラックで現代的に再解釈。無彩色のブラックをまとわすことで、フォルムとダイヤルデザインをより純化する手法は、バウハウスからの継承である。

針に施した印象的なレッドは、ドイツ・デッサウに残るバウハウスの校舎の扉からの引用。その建物姿は、ケースバックのサファイアクリスタルに写し取られている。そのファサードの格子の隙間から、ムーブメントが垣間見えるのが心憎い。

径40mm。自動巻き。SSケース。509,300円。

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