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ブルータス時計ブランド学 Vol.63〈グルーベル・フォルセイ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第63回は〈グルーベル・フォルセイ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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トゥールビヨンを革新する、独立系の小アトリエ

2004年の創業以来、ブランドコンセプトに掲げるのは「Art of Invention」(発明の芸術)。〈グルーベル・フォルセイ〉は、数々の独創的な機構を生み出し、一切の妥協がない手仕上げを徹底することで、著名な時計コレクターたちから称賛を受けてきた。

創業者のロベール・グルーベルとステファン・フォルセイは、名だたる時計メゾンに複雑機構を提供してきた〈ルノー・エ・パピ〉(現〈オーデマ ピゲ ル・ロックル〉)出身。1999年に独立し、2001年に複雑時計の設計・製造を請け負う〈コンプリタイム〉の設立を経て2004年、〈グルーベル・フォルセイ〉を創設した。

複雑機構の設計に長けた彼らは、フォルセイ曰く「200年以上進化していない」トゥールビヨンの革新に挑んだ。そして2004年、テンプを30度傾けて収めた1分周期のキャリッジを内包する第2のキャリッジが4分で1周するという、初作「ダブル トゥールビヨン 30°」を発表。彼らは、2軸による立体的な回転と傾斜したテンプによって、着用時の姿勢差(時計の向き)の平均化をより強く促そうと試みたのだ。

以来、傾斜したテンプと立体的な構造美は、メゾンの象徴となった。2007年に25度の傾斜を持つテンプを収めたキャリッジが、24秒周期で高速回転する「トゥールビヨン 24セコンド」、翌年には「ダブル トゥールビヨン 30°」と同じ機構が2つ備わる「クアドラプル トゥールビヨン」という前代未聞のメカニズムを搭載したモデルを立て続けに発表。〈グルーベル・フォルセイ〉は、トゥールビヨンの革命児として広く知られることとなる。

唯一無二のメカニズムと、他社を圧倒する手仕上げの美しさを兼ね備える〈グルーベル・フォルセイ〉の年間生産数は、250本程度。世界中のコレクターが、手に取ることを待ちわびる。

【Signature:名作】バランシエール 3

3つのブリッジが織り成す、立体的な構造美

〈グルーベル・フォルセイ〉バランシエール 3

“バランシエール”とは、テンプの意。2017年に登場した、メゾンでもっともシンプルなムーブメントを搭載する第3弾である。ダイヤルに露わになった自社製のテンプは、外輪を窪ませた中に歩度調整用のネジを取り付けることで空力特性を高め、高精度を得る仕組み。

さらに大口径による高い慣性モーメントで振動を安定させている。そのテンプと左側の香箱、そして時分針と秒ディスクを支える3つのブリッジが、ダイヤルの主役。その仕上がりは、黒光りするほどの見事なまでの鏡面状となっている。全モデルが限定生産。2024年に誕生した本作も、2028年までの生産で88本限定。

径41.5mm。手巻き。チタンケース。価格要問い合わせ。

【New:新作】ナノ・フドロワイアントEWT

トゥールビヨンとともに回る、前代未聞の大発明

〈グルーベル・フォルセイ〉ナノ・フドロワイアントEWT

メゾン初のクロノグラフにして、ダイヤル側にブリッジがないフライングトゥールビヨン搭載機。しかしそれら以上に注目すべきは、トゥールビヨンのキャリッジとともに回転する1~6の目盛りが付いたインダイヤルである。これは6振動/秒のテンプの振動周期を可視化するフドロワイアント機構。針は1秒で1周し、振動周期と同じ1/6秒単位の時の流れを示す。

同じ機構は他社にもあるが、トゥールビヨン上に据えたのは世界初。しかもキャリッジとともに回るインダイヤルは自転もし、常に目盛りが正対する。ナノレベルの超精密加工技術が、メゾンにおける10番目の発明を生み出した。ブランド創設20周年記念モデルとして、限定11本。

径37.9mm。手巻き。18KWG+タンタルケース。価格要問い合わせ。

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