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ブルータス時計ブランド学 Vol.59〈ローマン・ゴティエ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第59回は〈ローマン・ゴティエ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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マイクロ加工技術と伝統的手仕上げを融合

広くその名は知られていないが、目が肥えた時計コレクターたちは、〈ローマン・ゴティエ〉の腕時計を切望する。しかし年間総生産数は、わずか150本ほど。入手するのは、困難である。

ブランド名になっている創業者ローマン・ゴティエは、精密工学を学んだ後、1998年に時計部品メーカーで工作機械のプログラマー兼オペレーターとしてキャリアをスタートさせた。その経験から、工作機械による超精密加工と高級時計製作とを結び付けられないか、との考えにいたった。そして自身のブランドを立ち上げることを決意すると、2000年から経営学を学び、02年にMBAを取得。周到に準備を整えた上で、05年に生まれ故郷のジュウ渓谷に工房を開いた。

CNCマシニングセンターを完璧なプログラミングとオペレーションで操り、直径が1ミリにも満たないチューブを鋼材から削り出せる超精密加工技術を有する〈ローマン・ゴティエ〉には、名だたる時計メゾンからパーツ製作の依頼が途切れない。同じ工作機械を持っていても、彼のような加工プログラムが組めないからだ。

彼が定める許容加工誤差は、±2ミクロン。超高精度に加工されたパーツは、すべて手作業で仕上げられ、最上級の美観を得た後、丁寧に手組みされる。07年に「プレスティージ HM」で時計界デビューを果たすと、すぐに時計コレクターの目に留まった。

そして13年に発表した、ゼンマイの駆動力をまず鎖と滑車とで伝達する古の機構チェーンフュジーを再解釈した「ロジカル・ワン」で、ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)のメンズ・コンプリケーション部門賞を受賞。彼が思い描いた精密加工技術と伝統的な高級時計製作技術との融合は、間違った道でなかったことが、創業からわずか8年で証明された。

【Signature:名作】インサイト・マイクロローター

大胆にしてクラシカルな構造美

オフセットダイヤルにスモールセコンドが重なり、その真下で露わになったテンプが、正確な時を刻む。そして9時位置では、ブリッジに挟まれたマイクロローターが、ゼンマイを巻きあげる。メゾン初の自動巻きは、実に大胆な構造で2017年に登場した。

ほぼすべてが限定モデルで、素材やダイヤルの違いでバリエーションを展開。これはプラチナケースと伝統的な高温焼成エナメルダイヤルとの組み合わせとし、ダイヤルも自社製である。元来は斬新な見た目であるはずなのに、クラシカルな印象であるのが、ゴティエの優れた美的センスをうかがわせる。

径39.5mm。自動巻き。Ptケース。18,480,000円。世界限定10本。

【New:新作】C by ローマン・ゴティエ プラチナエディション ブレスレット

現代性と伝統が交錯するスポーツウォッチ

2022年に登場した、ケースとブレスレットが完璧な一体感を奏でるスポーツウォッチの新装モデル。ダイヤルに緻密でランダムな溝を手彫りし、PVDで淡いブルーに染め上げた様子は、アルプスの氷河にも似る。そしてややイレギュラーな6時半位置に配したスモールセコンドのインデックスは、氷河を照らす陽光のよう。

ケースとブレスレットは、サテンとポリッシュに仕上げ分けられ、プラチナならではの白く高貴な輝きを放つ。ムーブメントはジュウ渓谷伝統のフィンガーブリッジを現代的に再解釈し、「進化する伝統」という理念を体現した。

径41mm。手巻き。Ptケース。24,200,000円

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