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ブルータス時計ブランド学 Vol.52〈フレデリック・コンスタント〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第52回は〈フレデリック・コンスタント〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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手の届く価格帯で、高品質なスイス製腕時計

創業時から変わらぬブランドコンセプトは、「手の届くラグジュアリー」。ピーター・スタースと妻アレッタは、「高品質なスイス・メイドの腕時計を、より多くの人に届けたい」との想いを抱き、1988年に〈フレデリック・コンスタント〉を創業した。折しも、機械式腕時計に再興の兆しが見え始めたころ。彼らは信頼性の高い汎用の機械式ムーブメントをクラシカルなデザインに収め、時計市場に打って出た。

ビジネスセンスに長けた2人は、ブランドの成功には、アイコンが必要なことを理解していた。彼らがさまざまに思いを巡らし、1994年にたどり着いたのが、ダイヤルの一部を丸く開口してテンプの動きを見せる「ハートビート」であった。機械式ならではの時のリズムを表に見せることで、魅力をアピールしたのだ。

この試みは、多くの他社が模倣するほど大成功を収め、ブランドは大きく発展する。そして2004年には、自社製ムーブメントの開発に成功。その初作はハートビートをよりダイヤルで強調できるテンプを反転して設置した設計だった。

2006年には、新たなファクトリーが完成。以降、矢継ぎ早に新たな自社製ムーブメントを世に送り出してきた。その中には、トゥールビヨンやワールドタイマーといった複雑機構も含まれるが、「手の届くラグジュアリー」の理念は貫かれている。それを可能とするのが、ムーブメント同士のパーツの共有化と、より少ない部品で機構を実現するクレバーな設計である。

そして2016年、2人は大きな決断をする。ブランドのより大きな発展を目指し、〈シチズン ウオッチ グループ〉傘下に入るとを決めたのだ。結果、メゾンの販路が飛躍的に拡大。一方で開発・製造の独立性は維持され、今も変わらず高品質なスイス製腕時計を作り続けている。

【Signature:名作】クラシック カレ オートマチック ハートビート

ムーブメントの鼓動をあらわにした、ダイヤル

クラシック カレ オートマチック ハートビート

角形のケース、ローマ数字のインデックス、そしてブレゲ針。クラシックウォッチの王道的なスタイルが、12時位置のハートビートによってアバンギャルドな印象を併せ持つに至った。機械式ムーブメントの鼓動をあらわにするダイヤルの開口部をテンプの直径にピッタリと合わせ、窓から見える他の要素を極力排除しているのは、さすが元祖。

ダイヤル中央の装飾は、スタンピングによるものだが、凛とエッジが立っていて、丁寧な仕事ぶりがうかがえる。ケースのポリッシュ仕上げの質感も高く、スイス・メイドの高品質が、目でも堪能できる。

縦33.3×横30.4mm。自動巻き。SSケース。236,500円。

【New:新作】クラシック ムーンフェイズ デイト マニュファクチュール

実用性をさらに高めた、最新自社製ムーブメント

フレデリック・コンスタントのクラシック ムーンフェイズ デイト マニュファクチュール

“マニュファクチュール”の名を掲げる、自社製ムーブメント搭載モデルの最新作。6時位置にムーンフェイズと指針式日付表示が備わる機構は、2015年に実現されていたが、べーズムーブメントを大幅に設計変更して約72時間(3日間)のロングパワーリザーブをかなえた。

搭載するCal.FC-716は、33番目の自社製ムーブメント。2年毎に3つ以上という開発スピードも驚異的である。ダイヤルは、スリムな楔形の植字インデックスとアルファ針によるシャープな顔付きに。

径40mm。自動巻き。SSケース。660,000円。

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