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ブルータス時計ブランド学 Vol.51〈ローラン・フェリエ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第51回は〈ローラン・フェリエ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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手仕上げと機構で魅せる、小アトリエ系メゾン

名門〈パテック フィリップ〉は、多くの才能を輩出してきた。ローラン・フェリエ氏も、その一人。彼は同メゾンの設計部などで37年間勤めた後、2009年に自身の名を冠したブランドを設立した。そして2010年に誕生した初作「ガレ クラシック トゥールビヨン ダブルスパイラル」で、権威あるジュネーブ・ウォッチ・グランプリのメンズウォッチ部門最優秀賞を受賞。〈ローラン・フェリエ〉の名は、たちまち時計コレクターの間で広く知れ渡る存在となった。

トゥールビヨンをダイヤル側に見せず、外装とムーブメントに徹底的に手仕上げを行き渡らせているのは、〈パテック フィリップ〉と同じ。そこに、180度向きを変えた2つのヒゲゼンマイによって振動時の偏心を解消する「ダブルスパイラル」を与えることで、独自性を図ったのだ。さらにフェリエ氏は「日常使いに適した、控えめで信頼性の高い時計」を目指し、装飾的なディテールを極力排することで、外観でもオリジナリティを発揮した。

鮮烈なデビューを飾った2年後、〈ローラン・フェリエ〉は、再び時計界に衝撃を与えた。アブラアン-ルイ・ブレゲが考案するも実現には至らなかった、高効率で潤滑油をほぼ不要とするナチュラル脱進機を実現してみせたのだ。設計を主導したのは、フェリエ氏の長男クリスチャン氏。若き才能は、シリコンやメッキを積層するLIGAプロセスといった最新の超精密成形技術を導入することで、幻の機構を作り上げた。

こうした複雑機構のみならず、2針+スモールセコンドの手巻きムーブメントの審美性も、極めて高い。どれもがシンプルで、控えめな美を呈する〈ローラン・フェリエ〉の腕時計は、最上級の手仕上げで静かに存在を主張する。

【Signature:名作】クラシック オリジン ブルー

古典を現代的に再解釈したマスターピース

コロリとしたガレ(小石)のような丸みを帯びたケースのフォルムは、デビュー作から変わらぬメゾンのシグネチャー。それをチタンで形作り、軽快な着け心地をかなえた。新素材ケースに合わせ、ムーブメントの仕上げもマイクロブラスト加工+ブラックロジウム仕上げとし、現代的な装いとした。

ブルーグラデーションのダイヤルは繊細なマット感を表し、その上で完璧にポリッシュした切っ先シャープなアセガイ(槍)型針が鮮やかなコントラストを成し、優れた視認性をかなえている。大型のボール型リューズは19世紀の懐中時計が規範で、操作しやすく、巻き上げる感触が心地よい。

径40mm、手巻き、チタンケース。5,995,000円。

【New:新作】クラシック ムーン

ムーンフェイズの美を極める

今年登場したメゾン初のムーンフェイズは、ダブルギシェ(窓)による月・曜日表示とポインターデイトを組み合わせた、コンプリートカレンダーの古典を継承する。ダブルギシェの周囲のスロープは、各表示ディスクに光を導くための機能美。

そしてムーンフェイズは、特殊な技法により、金属部がなくエナメルだけで仕立てた眼鏡型のパーツが2つの月を満ち欠けさせる仕組みで、南北両半球の月相を示す。月と星とを描いたディスクは、極薄のアベンチュリンガラス製。クレーターを手描きした2つの月の様子は、実にリアルだ。

径40mm、手巻き、18KRGケース。14,960,000円(ピンバックル付)、15,510,000円(フォールディングクラスプ付)。

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