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ブルータス時計ブランド学 Vol.44〈オリエントスター〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第44回は 〈オリエントスター〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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国産機械式腕時計の輝ける星を目指す

1950年、東京都日野市に新しい時計メーカーが産声を上げた。社名は〈多摩計器〉。翌年に〈オリエント時計〉と改称し、現代に続く〈オリエントスター〉の初号機を世に送り出した。モデル名にはデザイン、製造、部品のすべてで“輝ける星”を目指すとの想いを込めたという。

そしてベルトコンベア式大量生産システムを世界に先駆けて確立し、低価格でも高性能な腕時計を持って1958年には海外市場にも打って出た。主な輸出先は、中近東と南米、中国。これら取引国の好みを反映し、他の国産腕時計とは一味違ったデザイン性は、日本の時計ファンから「デザインのオリエント」と呼ばれるほどに高く評価された。

またクォーツムーブメントが席巻した時代でも、小型電池の入手が困難な海外市場向けとして機械式腕時計を作り続け、技術を継承。一方、国内市場向けは1970年代にクォーツ式に軸足を移したため、〈オリエントスター〉の名は、一度途絶えることとなった。

やがて時が経ち、1990年代に入り機械式腕時計の魅力が再認識されると、〈オリエントスター〉は機械式腕時計のコレクションとして再スタートを切った。1996年にはパワーリザーブ計を初搭載し、その後もGMTやムーンフェイズ搭載モデルを開発。そして2017年、時代が動いた。〈オリエント時計〉は、長く協力関係にあった〈セイコーエプソン〉に統合されることになったのだ。

同社は、1942年の創業時から続く時計製造の歴史を持つ。その技術で〈オリエントスター〉をブラッシュアップ。ムーブメントパーツの加工精度を格段に向上させ、精度と品質をより高めた。さらに2021年には、半導体技術を応用したシリコン製ガンギ車を、国産腕時計としては初めて導入。〈オリエントスター〉は、輝ける星となる新たな一歩を踏み出した。

【Signature:名作】RK-AW0004S

ヘリテージを再解釈したレトロモダン

RK-AW0004S

少し横長になったゴシック体のアラビア数字は、初代〈オリエント時計〉最初の量産モデルに始まり、数々の歴代〈オリエントスター〉が受け継いできたヘリテージ。ブルーのリーフ型針も、初代からの継承である。

植字インデックスもブルーで設え、ホワイトのダイヤルと明確なコントラストを成すことで、伝統的なデザインをモダナイズした。12時位置には、ゼンマイの巻き上げ残量を示すパワーリザーブ計を装備。6時位置のスモールセコンドも含め、2つのインダイヤルはわずかにくぼませて、かつ同心円状の装飾を与え、視覚的に切り分けた。

径38.7mm、自動巻き、SSケース。96,800円。

【New:新作】RK-BX0001S

手業が織り成す外装に、先進の機械が潜む

RK-BX0001S

ワンランク上の品質と性能を届ける「Mコレクションズ」の最新作にしてフラッグシップモデル。複雑な凹凸模様が一面に広がるダイヤルは、職人が手彫りした金型を高圧でスタンピングすることで生まれる。さらに全体に放射状の筋目を施すことで、ペルセウス座の流星群が表現された。

優れた手業で美を織り成したダイヤルの下には、シリコン製ガンギ車を採用した最新の自動巻きCal.F8N64が潜む。外装も機械も、〈オリエントスター〉の頂点となる一本は、200本の限定生産。

径40mm、自動巻き、SSケース。341,000円。

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