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ブルータス時計ブランド学 Vol.42〈F.P. ジュルヌ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第42回は〈F.P. ジュルヌ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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唯一無二の機構を生み出す天才時計師

広くその名が知られた存在ではない。しかし熱心な時計ファンの多くが、〈F.P.ジュルヌ〉のブランド名と、それを率いる時計師フランソワ-ポール・ジュルヌの名に、畏敬の念を抱く。ジュルヌはフランス・マルセイユ生まれで、パリ時計学校を卒業。叔父の時計工房で懐中時計など歴史的な時計の修復に携わる中、自身の初作品としてトゥールビヨン懐中時計を1982年に完成させた天才である。1985年にパリに、その3年後にスイスに工房を開いてからは、多くのブランドに複雑機構を提供してきた。そして1999年、スイス・ジュネーブで〈F.P.ジュルヌ〉を設立した。

まず、一定のトルクで時計を動かすルモントワールと呼ばれる機構と、トゥールビヨンとの組み合わせを腕時計として初めて実現したことで注目を集め、2000年には動力源を共有する2つのムーブメントをケースに収めてテンプを共振させることで高精度を得る「クロノメーター・レゾナンス」が完成。柱時計と懐中時計でごくわずかだけ存在していた幻のレゾナンス機構を再現したことで、彼の名とブランド名は時計愛好家の間で、一気に知れ渡ることとなった。

クロノグラフやミニッツリピーター、永久カレンダーといった複雑機構はもちろん、シンプルな2針+スモールセコンドのモデルであっても独創的な機構を盛り込んだすべてのムーブメントは、彼自身が設計し、最初の一つは自分で組み立てている。それらの部品やダイヤル、ケースも自社製造する設備を持ち、小アトリエながら内製率の高さはスイスでも屈指。

また一部のスポーツウォッチを除いたほぼすべてのムーブメントを懐中時計時代の高級機にならい、ゴールド製としている稀有な存在でもある。ダイヤルに刻む「Invenit et Fecit(発明し、製作した)」との文字は、自信と誇りの表れ。〈F.P.ジュルヌ〉は、常に革新的で独創的だ。

【Signature:名作】クロノメーター・レゾナンス

共振原理を応用した高精度機構

クロノメーター・レゾナンス

物理的に極めて近しい2つの振動子は、同じ固有振動数で同期する──17世紀に発見された共振原理を、腕時計として初めて実現した〈F.P.ジュルヌ〉の代表作。ケースに潜む2つのムーブメントは、それぞれ異なる時刻が表示でき、2タイムゾーンとしても機能する。

2000年の登場以降、何度か改良が加えられ、現行モデルは2020年に誕生。ダイヤルの一方が24時間表示となり、海外渡航時に日本時間の昼夜判別ができるようになった。2つのダイヤルの間からは、共有するゼンマイを収めた香箱から動力を2方向に振り分けるディファレンシャルギアが見える。

径42mm。手巻き。Ptケース。価格要問い合わせ。

【New:新作】FFC

現在時刻を指折り数えるオートマタ

FFC

ダイヤルに配した巨大な手が、毎正時に伸ばした指の数・位置を変え、現在時刻を示すしくみ。分はダイヤル外周に沿って進む三角形の指標が示し、60に至った瞬間に指の形が変わる。

この極めて独創的な機構は、映画監督フランシス・フォード・コッポラからの「指で数を数えるように時間を示す時計は、過去にあったのか?」との問いかけから生まれた。時を示す手のモチーフは、16世紀の義手の設計図を基に手彫りで作られている。

径42mm。自動巻き。Ptケース。価格要問い合わせ。

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