高精度技術を受け継ぎ、独創性で時計界をリード
GPSが普及するまで、大海原を渡る航海にはマリンクロノメーターと呼ばれる高精度なデッキクロックが不可欠だった。出発地との時差で、東西の移動距離を知るためだ。〈ユリス・ナルダン〉は創業時から、マリンクロノメーターの優れた作り手であった。その名声は世界中に鳴り響き、50カ国以上の海軍で採用されたほど。高精度技術は懐中時計や腕時計にも生かされ、高級時計メゾンとして地位を確立していく。
しかし1970年代、スイス時計産業を襲ったクオーツショックにより〈ユリス・ナルダン〉も消滅の危機に陥った。それを救ったのが、時計愛に満ちた投資家ロルフ・W・シュニーダーであった。1983年にメゾンを買収した彼は、大型クロックにしかなかった天文時計を腕時計サイズで実現しようと試みた。
そして1985年。日食と月食、黄道十二宮などの天体情報が実に14万4000年分、機械的にプログラミングされた傑作「アストロラビウム・ガリレオガリレイ」が完成。さらにそれとは異なる天文表示を持つモデルを88年と92年に発表し、これら天文三部作の登場によりメゾンが再起したのに加え、機械式時計の魅力を広く再認識させることにも貢献した。
その後もミニッツリピーターとオートマタを統合したり、第2時間帯表示が前後に調整できる機構を作るなど、独創性を発揮していく。そして2001年には、メゾンを象徴するムーブメント自体が分針となる「フリーク」が完成。この時、シリコン製の脱進機が世界で初めて用いられた。
耐磁性と駆動効率が格段に向上するシリコン製パーツは、今では多くのブランドが採用している。その製造会社を傘下に持つ〈ユリス・ナルダン〉は、パーツを他社にも提供することで優れた革新性を普及させ、機械式時計の新たな未来を開く。
【Signature:名作】マリーン トルピユール
メゾンのルーツを、ダイヤルデザインに継承
12時と6時位置にパワーリザーブ計とスモールセコンドが並ぶダイヤルデザインは、かつて製作していたマリンクロノメーターを規範とする。コインエッジを刻んだベゼルを薄く仕立てることでダイヤルを拡張し、さらに白を背景にインデックスはブラック、針はブルーで明確なコントラストを成すことで優れた視認性が確保された。
ケースはやや大振りではあるが、ラグの形状と角度が入念に考察され、また11mm厚と比較的薄型でもあるため、フィット感は上々である。ストラップは、廃棄された漁網をリサイクルしたテキスタイル製。海洋汚染防止にも、役立つ。
径42mm。自動巻き。SSケース。1,331,000円。
【New:新作】フリーク[X OPS]
メカも見た目も、腕で強烈な個性を主張する
テンプと脱進機が備わる巨大な分針が1時間でダイヤルを1周するメカニズムは、懐中時計の時代にあったカルーセル機構の現代的な再解釈。ダイヤル中央・サークルの下には、ゼンマイを収めた巨大な香箱が潜む。
独創的なムーブメントを包むケースは、DLC処理を施したチタン製。そこにマーブル調の質感を表す独自のカーボン系複合材製のサイドパーツを組み合わせることで、個性豊かな外観を創り上げた。機械と外装の両面で、メゾンの独創性が発揮された1本。
径43mm。自動巻き。チタン+カーボン系複合材ケース。5,159,000円。