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ブルータス時計ブランド学 Vol.36〈ロジェ・デュブイ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第36回は〈ロジェ・デュブイ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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伝統的な手仕事と、前衛的な表現の融合

「高級時計のムーブメントは、美を伴っていることが何よりも大切です」──創業者ロジェ・デュブイが、インタビューで度々語ってきた言葉だ。ジュネーヴで時計技術を研鑽してきた彼は、美を重んじるジュネーヴ・スタイルの守り人であった。

そして1995年に自身のブランドを設立して以降、全モデルで伝統的な手仕上げを義務付けるジュネーヴ・シールを取得してきた。またどのモデルも限定生産という稀少性も相まって、〈ロジェ・デュブイ〉は高級時計市場で、確固たる地位を築いていく。

2001年には、ジュネーヴ郊外に念願だったマニュファクチュール(ムーブメント製造が可能なファクトリー)が完成。しかし2004年、さまざまな事情でデュブイはメゾンを去ることとなった。

翌年に発表された世界初の「ダブルトゥールビヨン スケルトン」や「ミニッツリピータートゥールビヨン」といった複雑機構は、彼の置き土産。また後にアイコンとなる「エクスカリバー」コレクションも、この年に生まれている。

2008年〈ロジェ・デュブイ〉は、〈カルティエ〉や〈ヴァシュロン・コンスタンタン〉などを擁するリシュモン グループ傘下に。そして2011年、同グループはデュブイ本人を呼び戻した。復帰した彼の肩書は、“時計師”。ムーブメントの開発アドバイザーが主な仕事だ。

傾いた4つのテンプで高精度を得る「クアトゥオール」をはじめ、いくつもの独創的な機構が彼のアドバイスにより生み出されてきた。またメゾンとしても、前衛的なデザインで創造性を発揮。と同時に外装にも機械にも伝統的な手仕上げを施す方針は、創業時から変わっていない。

2017年、創業者ロジェ・デュブイ逝去。美を重んじる彼の信念は、今もメゾンに受け継がれている。

【Signature:名作】エクスカリバー モノバランシエ チタン

星型フレームが支えるムーブメント

〈ロジェ・デュブイ〉エクスカリバー モノバランシエ チタン

巨大な星を象るスケルトンムーブメントは、2015年に誕生したメゾンのアイコン。それを搭載するケースとブレスレットに、レギュラーモデルとしては初めてチタンが採用された。比重が低い素材の恩恵で、軽快な着け心地がもたらされた。

またブレスレットのリンクを短くすることで、しなやかさを増し、フィット感を向上させてもいる。ダイヤルに露になった自社製の自動巻きムーブメントCal.RD720SQは、大胆なデザインでありながら、各パーツを注視すると入念に仕上げられていることが分かる。約72時間(3日間)パワーリザーブが与えられ、実用性にも秀でる。

径42mm。自動巻き。チタンケース。9,295,000円。

【New:新作】エクスカリバー スパイダー ウラカン ステラート MB

特別なスーパーカーの魂を宿す

〈ロジェ・デュブイ〉エクスカリバー スパイダー ウラカン ステラート MB

ランボルギーニのモータースポーツ部門、スクアドラ・コルセとのコラボモデル。大胆なスケルトンムーブメントのデザインは、スーパーカーのエアインテークとルーフラックをモチーフとする。12時位置のテンプは、12度傾けて設置する独自の構造により高精度を得ている。

ケースは、シート成形コンパウンドカーボン製。極めて軽量であり、また表面に浮かぶ木目にも似た模様がユニークである。ブルーのグラデーションによるカモフラージュが彩るラバーストラップも、スタイリッシュだ。世界限定28本。

径45mm。自動巻き。カーボンケース。9,845,000円。

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