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ブルータス時計ブランド学 Vol.35〈ロンジン〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第35回は〈ロンジン〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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輝かしき歴史遺産を現代に受け継ぐ

1832年に誕生。そのブランド名は、1867年の工場完成当時、その敷地が「Les Longines(細長い野原)」と呼ばれていたことに由来する。この工場で〈ロンジン〉は、いち早く部品製造から組み立てまで一貫生産を実現し、さらに電動工作機械の導入でもスイス時計業界の先駆けとなった。

ここから生み出された懐中時計は、天文台による精度コンテストで、何度も優勝に輝き、万国博覧会などでも数々の受賞を果たす。その実績が評価され、さまざまな世界的スポーツ大会で公式計時を担当し、技術を研鑽していく。

1913年には、世界初の腕時計用クロノグラフムーブメントCal.13.33Zを開発。1925年にはクロノグラフを作動させたままリセットできるフライバック機構を発明し、1936年に特許を取得した。同じ年に生まれたCal.13ZNは、今も世界一美しいクロノグラフムーブメントだ、とも称賛される傑作である。

そんな〈ロンジン〉のクロノグラフは、かのリンドバーグをはじめ多くの飛行家の偉業を支えてきた。クロノグラフ以外にも高精度技術を生かした名作は数多く、テンプを高速で振動(毎秒10振動)させて精度を高める技術でも、世界で先駆けていた。さらにはクォーツムーブメントにおいても、〈ロンジン〉はスイスのパイオニアであった。

現在の〈ロンジン〉は、こうしたヘリテージを再解釈・再構築したモデルで人気を博している。同時にモダンで頑強なダイバーズウォッチ、小振りでエレガントなレディスウォッチなど、幅広いコレクションを展開。スイスで五指に入る年間生産数を誇っている。ムーブメントは「ロンジン エクスクルーシブ キャリバー」を採用し、外観だけではなく、メカニズムでもヘリテージを受け継ぐ。

【Signature:名作】ロンジン マスターコレクション

神秘的な月の満ち欠けを映す

ロンジン マスターコレクション

2005年に登場した「ロンジン マスターコレクション」は、伝統に裏打ちされた普遍的なクラシカルを体現してきた。機構的なバリエーションも豊富で、このモデルは、月が満ち欠けする様子を写し取るムーンフェイズと、その外側の数字を針で示すポインターデイトが備わる。

インデックスをすべてシンプルなバーとしたことで、ムーンフェイズが一層際立つ。ダイヤルの外側をスロープ状に整え、そこに秒・分インデックスのスペースとしているのも巧みだ。リーフ型の時分針が、時を刻む様子もエレガント。ダイヤル仕上げも繊細、上質である。

径40mm。自動巻き。SSケース。398,200円。

【New:新作】ロンジン スピリット ズールータイム

レトロ感高めな新GMTウォッチ

ロンジン スピリット ズールータイム

「ロンジン スピリット」コレクションは、歴代パイロットウォッチからエッセンスを抽出し、2020年に誕生した。その人気モデルの1つであったGMT搭載モデルが今年、一回り小さい39mmケースをまとった。

〈ロンジン〉は、1925年にいち早くGMT搭載の腕時計を生み出した、この機構のパイオニア。当時のモデル名であった「Zulu Time」の名とともに、機構のヘリテージを本作は受け継ぐ。ベゼルとリューズをイエローゴールドとしたことで、ヴィンテージな印象が一層高まった。

径39mm。自動巻き。SS+18KYGケース。669,900円。

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