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ブルータス時計ブランド学 Vol.34〈ハミルトン〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。34回は〈ハミルトン〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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世紀を超えて、アメリカの歴史とともに発展

米国ペンシルバニア州ランカスターで〈ハミルトン〉が創業した1892年当時は、鉄道の黎明期であった。急速に発展する鉄道網での安全な運行を、〈ハミルトン〉は高精度な懐中時計で支えてきた。付いた異名は「アメリカ鉄道のタイムキーパー」。

鉄道時計で培った高精度技術は、続いて軍用に注がれた。第一次世界大戦で戦うアメリカ軍兵士のために、〈ハミルトン〉は信頼性が高いミリタリーウォッチを提供したのだ。これをきっかけに、本格的な腕時計製作がスタート。軍からの信頼は厚く、第二次世界大戦中には大量のミリタリーウォッチの発注に応えるために、一般向けの腕時計製作を中断せざるをえなかったほどに。

そして平和が訪れた1950年代、〈ハミルトン〉はエレクトロニクス技術で時計界をリードする。1957年には世界初の電池式腕時計「ベンチュラ」を開発。最先端技術を誇示するかのような大胆な三角形のフォルムは、かのエルヴィス・プレスリーも魅了した。

さらに1972年には、これまた世界初となるLEDデジタルウォッチ「ハミルトン パルサー」を生み出し、時刻表示の手段を革新した。一方で1969年には、〈ブライトリング〉〈ホイヤー〉〈デュボア・デプラ〉と共同で、世界初のマイクロローター式自動巻きクロノグラフムーブメント「クロノマチック」を開発している。

1960年代半ばから製造拠点をスイスに移していた〈ハミルトン〉は、1972年には〈オメガ〉と〈ティソ〉と同じSSIH(スイス時計産業協会)傘下となり、より高い生産能力を得た。

SSIHは、現在のスウォッチグループの母体の一つ。時計製造に関するすべてを持つグループ傘下にあるメリットを〈ハミルトン〉は最大限に生かし、高品質なモデルを世に送り出している。そのすべてに価格以上の価値を与えることが、ブランドの矜持。その恩恵を、多くの時計ファンが享受している。

【Signature:名作】カーキ フィールド メカ

1966年製モデルを再現した、真のミリタリーウォッチ

〈ハミルトン〉カーキ フィールド メカ

1966年にアメリカ軍のために開発された「カーキ フィールド」の名と外観が、現代に蘇った。光の反射を抑えるツヤ消しケースやマットなブラックダイヤル、24時間表示のインデックスは、軍からの要望に応えた本物のミリタリースタイルである。

ムーブメントも、当時と同じ手巻き式を採用。同じグループ傘下のムーブメント会社〈ETA〉と共同開発した〈ハミルトン〉専用のCal.H-50は、約80時間のロングパワーリザーブを誇る。レザーをあしらったNATOストラップが、スタイリッシュ。この完成度で8万円台は、最強のコストパフォーマンスだ。

径38mm。手巻き。SSケース。85,800円。

【New:新作】カーキ フィールド エクスペディション オート

大自然への旅へといざなう、タフなツールウォッチ

〈ハミルトン〉カーキ フィールド エクスペディション

モデル名にある“エクスペディション”とは、遠征の意。軍用で培った優れた精度や耐久性、視認性を受け継いだ、ツールウォッチが誕生した。リューズをねじ込み式とすることで、100m防水を実現。方位を刻んだ回転ベゼルは、時針と太陽の位置とでおおよその方角を知ることができる。

さらに搭載する自動巻きは、ヒゲゼンマイに非磁性合金ニヴァクロンを採用し、耐磁性にも優れる。タフで高性能なツールウォッチを腕に、いざ冒険の旅に出かけよう。

径41mm。自動巻き。SSケース。152,900円。

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