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ブルータス時計ブランド学 Vol.33〈ティソ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第33回は〈ティソ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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高品質・量産化の両立を図り、価格以上の価値を創出

1853年、スイス時計産業の中心地の1つル・ロックルで、小さな時計工場として産声を上げた〈ティソ〉は、今年創設170周年を迎えた老舗である。創業者の息子、チャールズ・エミル・ティソは5年間アメリカで修業し、合理的な知見と国際的視野を身に付けたことが、その後のメゾンの方向性を決定づけた。

まずスイスの他社に先駆け、アメリカとロシア市場に進出。1915年にはいち早く機械化生産を導入し、高品質と量産性の両立を図った。そして1916年、ロシアのロマノフ朝からの依頼で、現行モデルにもラインナップされる縦長の角形ケースが手首に沿ってカーブする「バナナウォッチ」が誕生する。

また革新性にも長け、1930年には世界初の耐磁時計の開発に成功している。同じ年、エミルの息子、ポール・ティソに経営が譲渡されると、〈オメガ〉とともにSSHI(スイス時計製造株式会社)を設立。その前年に巻き起こった世界大恐慌を協力することで、乗り切りるためだ。これにより組織と販売網が拡大された〈ティソ〉は、ワールドタイム「ナビゲーター」をはじめ、ヒット作の数々を生み出していく。

そしてスイス時計産業をクォーツショックが襲うと、1971年にSMH(現スウォッチ グループ)傘下となることで、これも乗り切ってみせた。その後も、前例のないプラスティックケースを導入し、1999年に発表した腕時計に世界初のタッチ機能を搭載した「T-touch」のような電子技術でも、時計界をリード。と同時に〈ティソ〉は、クラシカルウォッチを常にラインアップしてきた。

高精度の追求も、創業時からの伝統であり、2013年には、スイスのクロノメーターコンテストで見事優勝に輝いてもいる。高品質と量産性の両立は現代でも図られ、コストパフォーマンスに優れたモデルを世に送り出している。

【Signature:名作】TISSOT シュマン・デ・トゥレル パワーマティック 80

機械的魅力も高い上質なクラシカルウォッチ

TISSOT シュマン・デ・トゥレル パワーマティック 80

コレクション名は、本社社屋に通ずる小道の名に由来する。「ティソ シュマン・デ・トゥレル」は、〈ティソ〉の長きにわたるクラシックウォッチ製作の歴史に裏付けられた、タイムレスなコレクションである。

2023年、ここに新投入された小振りな39mmケースは、丸く膨らむボンベダイヤルやバーインデックス、ランセット(柳葉)型針といったディテールに、歴代のクラシックウォッチの意匠を受け継ぐ。さらに最長80時間駆動で精度と耐磁性にも優れた自動巻き「パワーマティック 80」を搭載。機械的な魅力も高い。

径39mm。自動巻き。SSケース。127,600円。

【New:新作】ティソ PRX 35mm パワーマティック 80

ジェンダーレスに使える小振りなラグスポ

ティソ PRX 35mm パワーマティック 80

フラットなケースとブレスレットが完全統合された姿は、1978年製モデルをモチーフとする。2021年の再登場以来、大ヒットを続ける〈ティソ〉流ラグジュアリースポーツウォッチに、小振りな35mmケースが新登場。

ヴィンテージウォッチ好きの琴線に触れる絶妙なサイズ感は、ジェンダーレスで使え、シェアウォッチとしても最適である。前述したパワーマティック 80を搭載。格子状の凹凸を付けたアイスブルーのダイヤルは、仕上がりと発色が美しい。

径35mm。自動巻き。SSケース。107,800円。

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