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ブルータス時計ブランド学 Vol.26〈スウォッチ〉

海より深い腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第26回は〈スウォッチ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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スイス時計産業の危機を救ったポップなクォーツ時計

1969年にセイコーが生み出した、大量生産が容易で高精度な腕時計用クォーツムーブメントは、たちまち世界の市場を席巻し、スイス時計産業は冬の時代を迎えた。これを「クォーツショック」という。〈スウォッチ〉は、衰退の一途を辿るスイス時計の現状を打破するべく、1983年に誕生した。

目指したのは、これまでになかったコンセプトの腕時計開発。樹脂製のケース内部に直接クォーツムーブメントを組み込み、フルオートメーションで生産するというまったく新しいスキームを構築した。こうして生まれたチープなプラスチック製腕時計の登場を当初、時計関係者はいぶかった。

しかし春夏・秋冬の各シーズンに大量の新作を投入し、販売期間は1シーズンというファッション業界にならった販売スタイルを採り、イタリアの著名なインダストリアルデザイナーと手を組んだポップな外観で人気を獲得。キース・ヘリング、横尾忠則といったアーティストや映画、音楽とのコラボ限定モデルの登場が人気に拍車をかけ、1990年代にはコレクターズアイテムとなるほどの大ブームを巻き起こした。〈スウォッチ〉は、腕時計をポップカルチャーにしたのだ。

また機械的にも、クロノグラフや自動巻き搭載モデルを登場させるなど、ラインアップも拡充させていく。そして2013年、〈スウォッチ〉はわずか51のパーツから成る90時間駆動の自動巻きを、クォーツと同じくフルオートメーションで製品にまで作り上げる「SYSTEM 51」を実用化し、機械式腕時計にも革命を起こした。また素材でも2021年に原料の3分の1をバイオ由来樹脂とした「バイオセラミック」を開発するなど革新性を発揮している。

創業時に掲げた、これまでになかったコンセプトの腕時計開発、という目標は今も継続して、〈スウォッチ〉は時計界の新たな扉を開き続ける。

【Signature:名作】クリアリー ニュー ジェント

名作ジェリーフィッシュが、現代に再来!

スウォッチ クリアリー ニュー ジェント

内部のムーブメントを完全に透かし見せる透明なケース・ダイヤルと、赤・青・黄に色分けした針との組み合わせは、1985年に誕生し、〈スウォッチ〉がブレークするきっかけとなった「ジェリーフィッシュ」の、まさに再来である。

シルバーのインデックスリングも、オリジナルそのまま。しかし完全復刻とはせず、ケースを現代的な41mmに大型化し、時分針の色を逆にしている。ポップで清涼感タップリな外観は、これからの季節にぴったり。ケースは、2020年から用いている、土に還るバイオ系プラスチック製。地球環境にも、優しい。

径41mm。クォーツ。プラスチックケース。12,980円。

【New:新作】ビッグ ボールド アイロニー

SSとバイオセラミックの、幸福なマリアージュ

スウォッチ ビッグ ボールド アイロニー

47mmのオーバーサイズケースが、強烈な存在感を放つ「ビッグ ボールド」コレクションからの最新作。アイロニーとの名の通り、ケースはSS製だが、内部には〈スウォッチ〉独自のバイオセラミック製のコアが組み合わされている。

メカを見せる透明ダイヤルは、〈スウォッチ〉ではお馴染みのスタイル。大型ケースと相まって、一層個性的な装いである。かなりの大振りではあるが、総重量はわずか108g。着け心地は軽快である。

径47mm。クォーツ。SS+バイオセラミックケース。26,070円。

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