デザインと機構とで、優れたオリジナリティを発揮
〈ルイ・ヴィトン〉は2002年、今も主力コレクションである「タンブール」を世に送り出し、時計市場に“本格的な”参入を果たした。本格的、を強調したのには理由がある。実は、メゾン初の腕時計は1988年に生まれているからだ。パリ・オルセー美術館の設計などで知られるイタリア人女性建築家ガエ・アウレンティがデザインした「モントレーI」が、それだ。ワールドタイマーとアラーム、ムーンフェイズが備わるクォーツ式ムーブメントと、サイドが丸みを帯びたケースの製造は、IWCが手掛けた。生産数はごく限られ、「モントレーI」は、ヴィンテージ市場でも幻の存在である。
その後、ウォッチメイキング・プロジェクトは慎重に進められ、満を持して2002年に「タンブール」コレクションが誕生することとなる。コレクション名は、仏語でドラムの意。ケースサイドを丸く膨らませたフォルムが太鼓に似ていることが、名前の由来だ。この形状は、19世紀当時の懐中時計をモチーフにしているとか。ストラップを留めるラグの形状は、メゾンの原点であるトランクの取っ手をモチーフとし、同じくトランクから引用したブラウンをダイヤルに、イエローを針に用いるなど外装の随所に〈ルイ・ヴィトン〉らしさが散りばめられていた。
2004年には、早くも複雑機構のトゥールビヨン搭載モデルを発表。透明感のあるスケルトン仕様は、その後もメゾンの複雑時計に受け継がれていく。また2009年に誕生した、12個のキューブが毎正時に順に回転し、各表面の数字で時刻を示す「スピン・タイム」のような独創的なメカニズムも作り上げてきた。
2011年には、名だたる時計ブランドにムーブメントを提供してきた複雑時計アトリエ「ラ・ファブリク・デュ・タン」を、その翌年に高級ダイヤル会社「レマン・カドラン」を買収。そして2014年、巨大な時計専門ファクトリー「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」がジュネーブ郊外に完成し、独創性はさらに加速してゆく。第2時間帯をゴングの音色で知るミニッツリピーターや、手描きによるカラフルなフラッグモチーフで審美性にも優れたワールドタイマーなど、〈ルイ・ヴィトン〉の独自機構には、旅をテーマとしたものが多い。また2013年には、独立した3本のクロノグラフ秒針が備わる「ツインクロノ」で初の特許も取得している。
そして2021年、時計界で最も権威のあるジュネーブ時計グランプリで〈ルイ・ヴィトン〉の2つの時計がオーダーシティ賞とダイバーズウォッチ賞を同時に受賞するという快挙を成し遂げ、時計製造技術においても真の実力派であることが、証明された。
【Signature:名作】タンブール オトマティック ストリート ダイバー スカイラインブルー
古典を引用しながらモダンに仕立てたシティ派ダイバーズ
前述した21年のジュネーブ時計グランプリ受賞作の一つが、これ。潜水時間の計測を1時半位置のリューズで操作するインナーベゼル式としたことで、すっきりとした外観を実現した。潜水時間を計る際、インナーベゼルに刻んだダイビングスケールの0位置と分針の先端を合わせると、新たな冒険の始まりを示すXの文字が現れる仕掛けがユニーク。
インデックスはダイバーズウォッチで古くから用いられてきたドットとバーとの組み合わせとし、またスモールセコンドを採用したこととも相まって、ダイヤルデザインは実はレトロ。しかしネイビーとスカイラインブルーによるカラーリングで、ビーチにも都会の町の風景にも似合う、モダンな印象を醸し出した。
径44mm。自動巻き。SSケース。1,130,800円。
【New:新作】タンブール オペラ オートマタ
中国の伝統的意匠を全面に、精緻にデザイン
ジュネーブ時計グランプリで、もう一つの賞を射止めたオートマタ(機械式自動人形)搭載モデルの第2弾。ダイヤルでは、中国の伝統芸能・変面と、龍の精巧なモチーフが目を惹く。そして龍を象った2時位置のボタンを押すと、ダイヤルの龍の頭が動いて面の額に現在時刻を示す数字が表れ、同時に尻尾の先が扇に描かれた分目盛を指し示す仕掛け。さらに変面も動き、左目は瞼を半分閉じ、右目のモノグラム・フラワーが切り替わり、歯を食いしばる。
またダイヤル左上にある瓢箪は、ゼンマイの巻き上げ残量を示すパワーリザーブ計になっている。極めて精巧なオートマタの動きと、正確な時刻表示を同時にかなえるムーブメントは、完全自社設計・製造。立体的な龍のモチーフは手彫り、変面は細い金線で色の領域を区分けて釉薬を施すクロワゾネエナメル(線七宝)仕上げと、工芸的価値も高い。
径46.8mm。手巻き。18KPGケース。71,170,000円(参考価格、完売)。