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ブルータス時計ブランド学 Vol.21〈ブルガリ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第21回は、イタリアのデザインとスイスの技術が融合する〈ブルガリ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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ハイジュエラーにしてウォッチメーカー

〈ブルガリ〉の歴史は、1884年にローマで創業した宝飾店に始まる。1920年代から時計の販売をスタート。そして1977年、古代ローマのコインをモチーフとした、幅広のフラットなベゼルに「BVLGARI」の文字を上下にダブルで刻んだ「ブルガリ・ブルガリ」が大ヒットしたことで、本格的に腕時計市場への参入を図った。

1980年代初頭には、スイスのヌーシャテルに時計製造を専門とする〈ブルガリ・タイム社〉(現ブルガリ・オルロジュリ社)を設立。2000年以降は、ケースやブレスレット、ダイヤル、ムーブメントの各専門会社を次々と傘下に収め、時計製造にかかわるすべての垂直統合を図ってきた。それが完了した2010年、〈ブルガリ〉は「ウォッチメーカー宣言」を高らかに謳いあげた。

2012年には、新たなムーブメントパーツ工場が完成。直径が1mmにも満たない微細なビスも内製する〈ブルガリ〉は、ベーシックな3針自動巻きから、現在時刻を美しいゴングの音色で知らせるミニッツリピーターのような複雑機構まで自社で開発・製造できる高い技術力と設備とを有するに至った。

イタリアらしい優れたデザインと、スイス伝統のウォッチメイキング技術との融合こそが、〈ブルガリ〉ならではの強み。それが発揮されたのが、2012年に誕生した「オクト」である。ラテン語で“8”を意味するコレクション名の通り、八角形のケースを110面ものファセットカットで織り成し、各面はサテンとポリッシュとに仕上げ分け、立体的で複雑な造形美を創出。力強くもエレガントな「オクト」は、ウォッチメーカー〈ブルガリ〉の新アイコンとして大ヒットを飛ばした。

またムーブメント開発では、薄型化に注力していく。2014年には「オクト」の110面体はそのままに、極薄に仕上げた「オクト フィニッシモ」と「オクト フィニッシモ トゥールビヨン」が誕生。中でもトゥールビヨンは、ムーブメント厚が1.95mm、ケース厚は5mmと超極薄であり、当時、同機構における世界最薄を達成した。以降「オクト フィニッシモ」は、さまざまな機構で8年連続して世界最薄記録を樹立していく。

極薄ムーブメントの開発・製造は、老舗の時計メゾンであっても手を焼く難題。それを幾度もクリアしてきたウォッチメーカー〈ブルガリ〉の実力は、本物である。

【Signature: 名作】オクト フィニッシモ オートマティック

薄さと立体感との類稀なる融合

〈ブルガリ〉オクト フィニッシモ オートマティック

2017年に発表された、世界最薄2.23mm厚の自動巻きムーブメントを搭載。それを収めるケースの厚みも、わずか5.15mmと極薄である。しかし110面体のケースは、豊かな立体感を伴っている。そのケースとブレスレット、さらにダイヤルまでもサンドブラスト仕上げのチタン製としたマットグレーのワントーンの装いが、実にスタイリッシュである。

チタンはステンレススティールよりはるかに比重が小さく、薄さとも相まって、着け心地は実に軽やか。2017年、時計界で最も権威のあるジュネーブ ウォッチ グランプリで、男性時計部門を受賞。現在の〈ブルガリ〉ウォッチを代表する、傑作の一つだ。

径40mm。自動巻き。チタンケース。2,156,000円。

【New: 新作】オクト ローマ クロノグラフ

より丸みを強調した、八角形ケースを受け継ぐ

〈ブルガリ〉オクト ローマ クロノグラフ

さる2023年3月にジュネーブで発表されたばかりの最新作。2017年に誕生した58面体のケースは、ベゼルの丸と八角形をそれぞれ別体とした2層構造とし、丸みが強調されている。そこに新たに加わったクロノグラフは、ブラックダイヤルに小さなピラミッド型が連なるクル・ド・パリ装飾を施し、精悍な印象を高めている。

クロノグラフのプッシュボタンは、ケースサイドとラグとの間に巧みに融合。自社製自動巻きと、信頼性が高い汎用クロノグラフ・モジュールとの組み合わせとすることで、価格を抑えているのも嬉しい。防水性能は、100m。デイリーウォッチとして、実に頼もしい。

径42mm。自動巻き。SSケース。1,254,000円。

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