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ブルータス時計ブランド学 Vol.15〈ショパール〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、2022年に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第15回は、ジュエリーと時計の2本柱を高いレベルで送り出す、〈ショパール〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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長い時計製造技術の研鑽に、宝飾技術が花を添える

カンヌ国際映画祭のレッドカーペットで女優陣を華麗に彩るハイジュエリーで名を馳せる〈ショパール〉は、女性とってはジュエラーのイメージが強い。しかし1860年にソンヴィリエで設立された歴史ある時計メゾンであり、創業者のルイ-ユリス・ショパールは、高精度で美しい懐中時計の作り手として名を馳せていた。

そして2代目ポール-ルイは、1937年にアトリエをジュネーブに移転。美しさを重んじるジュネーブ様式を継承し、高級時計ブランドの仲間入りを果たした。

しかし3代目ポール-アンドレの時代に、メゾンは存続の危機に陥る。子どもたちが、社を継ぐ意思がないと言い出したのだ。そして1963年、ポール-アンドレは、ドイツ・フォルツハイムで代々宝飾品を製作してきたカール・ショイフレ3世にメゾンを託すことを決意する。以降〈ショパール〉は、時計とジュエリーとで優れた創造性を発揮し、今日までショイフレ家による家族経営を堅持してきた。

1976年に誕生した、ダイヤルの周囲でダイヤモンドが揺れ動く「ハッピーダイヤモンド」は、優れた宝飾技術の賜物である。また1988年にヴィンテージカーの公道レース「ミッレ ミリア」と提携。同レースの名を冠する限定モデルシリーズは、自動車と時計、両方の愛好家のコレクターズアイテムとなっている。

さらに1996年には、ショイフレ家による初の自社製ムーブメント「L.U.C」が完成する。開発を主導したのは、カール・ショイフレの息子であり、妹キャロラインとともに共同社長としてブランドを率いるカール-フリードリッヒ。「ミッレ ミリア」レースに自らも参戦するヴィンテージカーの愛好家で、ワインとアンティーク時計の収集家でもある彼の美意識が、ムーブメントにも存分に発揮された。

目指したのは、時を超えたエレガンス。一切妥協せず、すべてのパーツの隅々にまで徹底的に手仕上げを行き渡らせた美しさと、入念に調整した高精度とを併せ持つムーブメントの完成により、〈ショパール〉は高級時計市場に返り咲いた。この時、スイス・フルリエに第2の工房「ショパール マニュファクチュール」も整備。2007年には新工房「フルリエ エボーシュ」が完成し、パーツ製造や装飾、組み立てなどムーブメント製作に関するすべてを自社で行える体制が確立された。

彫金(エングレービング)やエナメルといったジュエリーで培った宝飾・工芸技術を、時計製造に生かせるのも強み。また18金を自社で精錬する、スイスでも稀有なメゾンでもある。純金の調達には慎重を期し、トレーサビリティが明確な2つのルートから調達されるゴールドのみを使用している。これを名付けてエシカルゴールド。〈ショパール〉のサステナビリティへの取り組みは、時計界をリードする。

【Signature: 名作】L.U.C XPS

メゾンが志すエレガンスを体現

ショパールの名作時計 L.U.C XPS

自社製ムーブメント「L.U.C」の名は、創業者Louis-Ulysse Chopard の頭文字に由来し、かつての工房の名にも冠されていた。その1930年代当時のモデルから、立体的なドーフィンフュゼ型の針を引用。7.2mm厚という極薄時計に、奥行き感を創出した。

12のアラビア数字と楔形インデックスはすべてロジウム仕上げを施したブラス製の植字で、完璧に磨き上げられ煌めきを放つ。ダイヤルに施すサンレイ仕上げも、実に繊細である。スリムなラグが実にクラシカルな印象で、かつエレガントな雰囲気を醸し出す。仕上げとディテールの操作とで、シンプルな中でショパールらしいエレガンスを育んだ。

径40mm。自動巻き。18KWGケース。2,420,000円。

【New: 新作】アルパイン イーグル フライング トゥールビヨン

ショパールの新作時計 アルパイン イーグル フライング トゥールビヨン

複雑機構が潜むラグジュアリースポーツウォッチ

2019年に誕生した「アルパイン イーグル」に、ダイヤル側に機構を露わにするフライング トゥールビヨンが追加された。時計の向きが変わること(姿勢差)によって生じる、重量方向の変化の平均化を図るこの複雑機構は、むろん自社製である。コレクションの開発を主導したのは、現・共同社長カール-フリードリッヒの息子カール-フリッツ。彼は父が1980年に作り上げた「サンモリッツ」を規範とし、ブレスレット一体型やビス留めベゼルといった特徴的スタイルを築き上げた。

深い放射状のダイヤル装飾は、アルプスを上空から見守る鷲の目の虹彩がモチーフ。コレクションのために開発したルーセント スティール A223は、既存のステンレススティールよりも白い輝きを放ち、また原料の70%にリサイクル素材を用いたエシカルな新合金だ。

径41mm。自動巻き。ルーセント スティール A223ケース。15,356,000円。

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