革新性を貫き、究極の時計製作に挑む
時計に限らずブランド名は、創業者の名であることが多い。しかし〈オメガ〉の名は、1894年に完成したムーブメント名に由来する。当時の社名は、ルイ・ブラン&フィルズ。創業者である父ルイ・ブランから工房を受け継いだ兄弟は、新たな生産体制を確立したムーブメントに、ギリシャ文字で“究極”を意味する「オメガ」の名を与えた。
この「オメガ キャリバー」は生産工程を分業制とし、多くのパーツを標準化することにより量産性と高品質とを両立した初のムーブメントとして時計史にその名を刻む傑作。そしてこのシステムを多くの他社が導入したことが、スイスが時計大国となる足掛かりの一つにもなった。
1903年、〈オメガ〉の名は、正式な社名に。やがて訪れる腕時計時代にも〈オメガ〉は、数々の精度コンテストで優秀な成績を収めていく。また外装面でも、1932年には角形ケースをアウターケースで包む防水時計「マリーン」を、1948年に新たな密閉構造を採用した「シーマスター」を開発するなど、いくつも革新をもたらしてきた。
そうした実績が買われ、1932年以来、数多くのオリンピックでオフィシャルタイムキーパーを務めてきたことで、〈オメガ〉の名は世界的に知られるようになる。さらに1964年、アメリカのNASAの公式装備品に、同社のクロノグラフ「スピードマスター」が選定。1969年のアポロ11号に始まる、全6回の有人月面着陸に携行されたことで、「スピードマスター」とともに〈オメガ〉の認知度は、さらに高まった。
1999年には、摩擦を軽減し駆動効率を飛躍的に高めた「コーアクシャル脱進機」の量産化に成功。この革新的な脱進機は、その後も進化を続け、2013年には、脱進機を構成するすべてのパーツと時をカウントするテンプ・ヒゲゼンマイの素材に非磁性体を用い、ムーメント自体に超高耐磁性を与えた「マスター コーアクシャル」が誕生する。
これを受け、医療用MRIが発する1万5000ガウスの強磁場下での精度試験を含む、新たな時計の公的検査・認定制度「マスター クロノメーター」を、METAS(スイス連邦計量・認定局)とともに制定。2022年、ラインナップするほぼすべての機械式腕時計で、取得を実現してみせた。
〈オメガ〉は常に革新に挑み、究極の時計製作を追求し続ける。
【Signature: 名作】スピードマスター ムーンウォッチ
超高耐磁性に進化した“プロフェッショナル”
「スピードマスター」は、最も有名なクロノグラフである。多くのバリエーションを展開するが、唯一無二のムーンウォッチの直系が、“プロフェッショナル”である。現行モデルは、2021年に誕生。それ以前に搭載していたムーブメントCal.1861を改良し、1万5000ガウスの超高耐磁仕様にしたCal.3861の採用によりマスター クロノメーターを取得する。
ベゼルに刻む平均速度が測れるタキメーターは、1957年に登場した初代からの伝統。加えてインダイヤルに段差を設けたブラックダイヤル、白いペンシル型の針など多くのディテールと、宇宙空間で万が一割れても砕け散らないヘサライト(強化アクリル)製の風防ガラスを前作から受け継ぐ。ブレスレットが5つのコマが横に連なる5連となったことで、エレガントな雰囲気が高まった。
径42mm。手巻き。SSケース。880,000円。
【New: 新作】シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ
ダイバーズウォッチの限界を超える
前述したように、オメガは防水時計でも業界をリードしてきた。その到達点が、2022年に誕生した本作。その防水性能はなんと6000mで、むろん市販モデル最深である。
超深海の水圧に耐えるため、既存のSSより40%以上硬く、30%以上弾力性に優れる高性能スティール「O-MEGA スティール」を開発。サファイアクリスタル風防とケースとの接地部を円錐形とすることで接触面を広げ、さらに複雑な形状が得られるリキッドメタルでガスケット(気密材)をつくり、完璧にケースと風防とを密着させて、極めて優れた防水性と気密性をかなえた。またサファイアクリスタルも、限りなく純度を高める新製法でより高い高度を得、5.2mmもの厚みを与え、高水圧に抗う。
径45.5mm。自動巻き。O-MEGA スティールケース。1,540,000円。