機能美を追求し続ける
〈ベル&ロス〉とのブランド名は、2人の創業者の愛称に由来する。1994年、フランス・パリで創業。以来、ブルーノ・ベラミッシュ(ベル)がデザインを、カルロス.A.ロシロが(ロス)が経営を担ってきた。彼らは、高校時代の盟友。当時からともにヴィンテージ・ミリタリーウォッチの収集家であったことから意気投合したという。
高校卒業後、ロシロはビジネススクールでMBAを取得し、コンサルタント会社や投資銀行でキャリアを積む。一方のベラミッシュは、国立のデザイン大学に進学。その卒業プログラムのインターン先として彼が選んだのは、アビエーション(航空)ウォッチで名を馳せるドイツの時計ブランド〈ジン〉だった。そのとき、オリジナルウォッチ製作への意欲が湧いた彼は、1992年にロシロと再会した際、その思いを熱く語り、それにロシロは心打たれ、〈ベル&ロス〉設立に至った。
時計製造のノウハウも設備も持たない彼らに手を差し伸べたのは、ベラミッシュのインターン先だった〈ジン〉の創業者ヘルムート・ジンであった。1994年に発表した初のコレクションの名は、「ベル&ロス by ジン」。それが、〈シャネル〉のオーナーの目に留まった。1997年に資本提携を締結。これにより〈ベル&ロス〉は、スイスのラ・ショー・ド・フォンに製造拠点を得た。
プロ用を強く志向した〈ベル&ロス〉の時計は、フランス空軍や国家警察の特殊部隊などに選ばれてきた。ベラミッシュはインタビューでたびたび「すべてのディテールには、意味と機能がなくてはならない」と口にする。機能を最優先したミリタリーウォッチや航空時計に、彼が惹かれるゆえんである。そして防水性、視認性、機能性、高精度をブランドの四原則と定め、無駄を削ぎ落した機能美を追求してきた。
その一つの完成形が、ロシロからの「航空機のコックピット計器が腕に載せられたら面白い」との言葉にヒント得て、2005年に完成した「BR-01」だ。四隅をビス留めした漆黒の大型スクエアケースに丸いダイヤルを埋め込んだ姿は、まさにコックピットから取り外された計器そのもの。ブラックのダイヤルに針とインデックスが白でクッキリと浮かぶ優れた視認性は、計器由来ならではである。
あまりに大胆なデザインは発表当初、時計関係者を戸惑わせた。いち早く反応したのは、ファッションデザイナーのラルフ・ローレン。「BR 01」に一目惚れした彼は、自身のブランドのモデルに着用させ、広告ビジュアルに大々的に使用した。それも功を奏し、どちらかといえばニッチな存在だった〈ベル&ロス〉は、一気にスターダムへの階段を駆け上がることとなる。
今も「BR 01」とそれから派生した「BR 03」は、パイロットの愛用者が数多い。またフランス空軍や国家警察向けのベースにも使われている。これらの事実が、〈ベル&ロス〉が創業時から追求してきた妥協なき機能美は、正しい道であったことを証明する。
【Signature: 名作】BR 03-92 ブラック マット
コックピット計器に範を取るメゾンのアイコン
46mm角だった「BR 01」のデザインを、42mm角のブラックセラミックケースで再現。それでもなお大型だが、かなり幅広のストラップが与えられ、腕にしっかりと固定できるため装着感は上々である。
ケースのマット仕立てはミリタリーウォッチの常道だが、ビロードのような繊細な仕上げとするのがフランスのブランドらしさ。ブラックとホワイトがコントラストをなすダイヤルは、最上級の視認性をもたらす。一度見たら忘れられない大胆なデザインは、メゾンのアイコンとしてふさわしい。
幅42mm。自動巻き。セラミックケース。478,500円。
【New: 新作】BR-X5 ブラック スティール
オリジナルムーブメントを搭載した新シリーズ
2019年に登場した「BR 01」のデザインを再解釈し、アーバンな印象に整え直したブレスレット一体型の「BR 05」の意匠を受け継ぐ新シリーズ。
ムーブメントには、メゾンとして初めて高性能なケニッシ社製を搭載する。〈シャネル〉が資本参加する同社の供給先は極めて限定されている。ここにゼンマイの巻き上げが残量を示すパワーリザーブ計を装備した、オリジナルのムーブメントを発注。ダイヤルのインデックスからアラビア数字をなくしてシンプルに整え直し、9時位置のパワーリザーブ計を主役とした。
幅41mm。自動巻き。SSケース。924,000円。