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ブルータス時計ブランド学 Vol.8 〈ジャガー・ルクルト〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、2022年に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介します。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第8回は、数々の発明にも彩られる〈ジャガー・ルクルト〉。 

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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マニュファクチュールの雄として

Manufacture(マニュファクチュール)── このフランス語を直訳すると「製造」だが、時計界ではもっと特別な意味を持つ。ムーブメントの開発・製造が自社でできるブランドを指すからだ。〈ジャガー・ルクルト〉は、多くの時計ブランドや関連企業が集まるスイス・ジュウ渓谷で最初のマニュファクチュールであった。

その体制が整えられたのは、1866年。1906年からはケースやダイヤルなど外装の内製化も推進し、1950年代には時計に関するほぼすべてを自社製造するに至った。今も内製率は、スイス屈指。またかつては他社のムーブメントとエボーシュ(半完成品のムーブメントやパーツ類)の開発・製造も担い、顧客には〈パテック フィリップ〉〈ヴァシュロン・コンスタンタン〉〈オーデマ ピゲ〉といった錚々たる名門が名を連ねていた。

機械式のみならずクォーツムーブメントも自社製造し、すべてのモデルに自社製ムーブメントを搭載する。その中には、1929年に生まれたW14×D4.8×H3.4mmという世界最小機械式ムーブメントCal.101や、2004年に完成した3つの回転軸を持つ「ジャイロトゥールビヨン」のような独創的な名機も数多い。この3軸を含む「トゥールビヨン」と「ミニッツリピーター」「パーペチュアルカレンダー」などの複雑機構を自在に組み合わせる技術力を持ち、ラインナップするムーブメントの種類は他社を圧倒する。

また腕時計以外にも、1℃の温度変化で膨張・収縮する特殊ガスを封入したカプセルの伸縮でゼンマイを巻き上げる置き時計「アトモス」を1928年から世に送り出してきた。これらすべての自社製品には「精度」「気温変化への耐性」「気圧変化への耐性」「耐衝撃性」「耐磁性」「防水性」の6項目を1000時間かけてテストする「1000時間コントロール」を課している。名門マニュファクチュールは、万全に品質管理された時計をユーザーに届ける。

【Signature: 名作】レベルソ・クラシック・ミディアムスリム

独自の反転式ケースで知られる、角形時計永遠のアイコン

ブルータス時計ブランド学 Vol.8 ジャガー・ルクルト

ケースを右にスライドすると台座から外れ、クルリと裏返せる。特異な反転式角形時計は1931年、インドに赴任していた英国人将校からの「ポロ競技中でも着けられる時計を」との依頼で生まれた。割れやすい風防ガラスを反転することで守ったのだ。

精密に加工された現行モデルのケースは、台座から外れるときと固定する際のカチリとした操作感が心地よい。端正なアラビア数字を配したクラシカルなダイヤル中央部には、放射状の装飾を与え力強い印象を添えた。搭載するCal.822A/2は、手巻きムーブメントの傑作。レベルソ専用設計でケースと同じく角形としているのが、名門マニュファクチュールらしい。

縦40.1×横24.4mm。手巻き。SSケース。866,800円。

【New: 新作】 ポラリス・パーペチュアルカレンダー

操作性と防水性に優れ、普段使いしやすい複雑時計

ブルータス時計ブランド学 Vol.8 ジャガー・ルクルト

コレクション名と上側のリューズで操作する経過時間が計れる回転式インナーベゼルは、1968年に生まれた世界初のアラーム付き潜水腕時計「メモボックス・ポラリス」に由来する。針とインデックスのデザインも、当時からの引用である。

ややレトロでスポーティエレガンスなコレクションに、パーペチュアルカレンダーを初搭載。そのダイヤルは、深い色調のブルーグラデーションに染め上げた。6時位置のムーンフェイズは、南半球の月相を針で示す機構が備わる。時計が長期間止まって暦がずれても、ケース左サイドに埋め込まれたコレクターで全表示が一斉送りできるので、修正が容易。潜水時計に由来するため10気圧の防水性能が与えられている。

径42mm。自動巻き。SSケース。4,708,000円。

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