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ブルータス時計ブランド学 Vol.4 〈ピアジェ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、2022年に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第4回は、スイスの時計&ジュエリーブランド、〈ピアジェ〉。 

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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精緻な薄型ムーブメントの伝統

1957年、〈ピアジェ〉は厚さわずか2mmという極薄手巻きムーブメントCal.9Pを生み出し、一躍時計界にその名をとどろかせた。ムーブメントを薄くするためには、すべてのパーツを薄く設えなければならない。2mm厚ともなれば、そのパーツ製造には高度な技術が要求され、組み立ても同じく優れた職人業と繊細な作業が不可欠となる。ゆえに極薄ムーブメントは、かつて複雑機構の1つとされていた。そんな薄型ムーブメントの名手として、〈ピアジェ〉は時計ファンに認知されている。

創業の地は、フランスとの国境を成すジュラ山脈の町ラ・コート・オ・フェ。まず1874年、正確な振動で時をカウントするテンプの動きに準じてゼンマイの巻き戻りを制御する脱進機の製造工房として産声を上げ、やがてムーブメント製作に乗り出すと、すぐに優秀さが評価された。そして1943年に〈ピアジェ〉の名を商標登録し、自社ブランドの時計製作をスタートさせた。

ジュエラーとしても名高い現在のメゾンの基礎が築かれたのは、1960年代。ジュネーブの宝飾と貴金属の工房を傘下に収め、華やかかつ独創的なジュエリーウォッチの数々をピアジェは世に送り出していく。多彩なウォッチデザインを可能としたのは、薄型ムーブメント。ムーブメントが薄いほど、それを包むケース形状の自由度はより高まるからだ。また華美な装飾や宝飾がなくとも、極薄ムーブメントを収めた薄型時計は、ドレッシィな印象となる。

エレガントさを追求する〈ピアジェ〉は、今日までシンプルな3針からクロノグラフ、さらにゥールビヨンやミニッツリピーターといった複雑機構であっても、薄型設計を貫き、いくつもの世界最薄記録を樹立してきた。それらムーブメントには、どれも極薄のパーツ1つ1つに手作業で装飾仕上げを施して、優れた審美性が与えられている。ジュエリーのように美しいピアジェの時計は、その内側に工芸的な美を持つ極薄ムーブメントが潜む。

【Signature: 名作】アルティプラノ ウォッチ

ミニマルな美と薄さを極めたエレガントなドレスウォッチ

2006年に誕生。デザインは1957年製モデルからの引用であり、それともにスリムなバーインデックスとバトン型の時分針だけを置くミニマルなダイヤルデザインは、冒頭で述べたCal.9Pを搭載した1957年製モデルを規範とする。

極めて華奢なバーインデックスは、一切にじみむことなく、艶感のあるシルバーダイヤルにクッキリと浮き立つ。ケースは宝飾技術仕込みの手業でポリッシュ仕上げされ、完璧な鏡面に輝く。Cal.9Pがルーツの2.1mm厚の手巻きムーブメントCal.430Pを搭載。ケース厚も6.4mmと極薄で、まさにピアジェらしい薄型ドレスウォッチの永遠の定番モデルである。

径38mm。手巻き。18KPGケース。2,112,000円。


ピアジェの名作時計 アルティプラノ ウォッチ
搭載するCal.9P。レマン湖のさざ波を模したサーキュラー状のコート・ド・ジュネーブなど装飾仕上げが美しい。

【New: 新作】アルティプラノ アルティメート コンセプト ウォッチ

表にパーツを露わにする2mm厚の超極薄腕時計

ピアジェ 新作

〈ピアジェ〉は2017年、ケースバックの内側に直接パーツを構築することで、Cal.9Pと同じ2mm厚の腕時計のプロトタイプを作り上げた。2020年に製品化された同モデルの、これは最新作。

ダイヤル右サイドにはプロトタイプが生まれた2017年2月7日を掲げ、オフセットダイヤルに2つある白枠のドットインデックスで最初に刻んだ時間7時47分を表すなど、偉業達成の記録を随所に留める。ケースは薄くても曲がらない剛性に優れるコバルト合金製。ダイヤル左サイドで時を刻むテンプの軸を下側のボールベアリングだけで支えるなど特別な構造で、極薄をかなえた。

径41mm。手巻き。コバルト合金ケース。63,800,000円。ユニークピース。

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