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ブルータス時計ブランド学 Vol.3 〈ヴァシュロン・コンスタンタン〉

海より深い、機械式腕時計の世界。中でも知っておきたい重要ブランドを、1つずつ解説するこの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、2022年に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第3回は、最古参のマニュファクチュール(ムーブメントから自社で一貫生産するメーカー)、〈ヴァシュロン・コンスタンタン〉。 

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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1755年から途切れず、伝統を受け継ぐ

スイス時計産業は16世紀半ば、宗教改革に賛同したフランスの時計師が反対勢力からの迫害を逃れ、ジュネーブに移住したことで萌芽した。そして同地にあった金細工技術と結びつき、正確さと美しさとを併せ持つジュネーブ・スタイルが確立されていく。その発展途上にあった1755年、〈ヴァシュロン・コンスタンタン〉は創業した。そして今日まで一度も途切れることなく、真摯に時計製作に向き合ってきた。

伝統的な手仕上げと装飾とを厳格に義務付けるジュネーブ・シールを、ほとんどのモデルで取得していることが、優れた機構と審美性とを兼ね備えるジュネーブ・スタイルの継承者である証しだ。すべてのムーブメントパーツを丁寧に面取りし、磨きと装飾とを施し、機械自体に工芸的な美を与えることが、ジュネーブの老舗名門の誇り。ジュネーブに加え、もう一つの時計産業の中心地・ジュウ渓谷にもファクトリーを構え、ゴングの音色で現在時刻を分単位で知らせるミニッツ・リピーターや時計への重力の影響を平均化するトゥールビヨンといった複雑機構の数々を自社で開発・製作できる高い技術力も有する。

さらにエナメルやエングレービング(彫金)、宝飾などの伝統的な工芸技術を工房内に継承してもいる。そうした複雑機構をいくつも組み合わせた特別な一点製作モデルや、さまざな工芸技術を駆使したメティエダール(仏語で芸術的手仕事の意)コレクションを毎年のように発表。またメカニズムと外装のビスポークに応えるレ・キャビノティエ部門を持ち、世界で一つだけの時計を手に入れられる。

【Signature:名作】パトリモニー・マニュアルワインディング

メゾンを代表する薄型ドレスウォッチの定番にして名作

 ヴァシュロン・コンスタンタンの名作 パトリモニー マニュアルワインディング

2004年の誕生時のモデル名は、「パトリモニー・ラージサイズ」。デザインは1957年製モデルからの引用であり、それを40mmの大型ケースでモダナイズした。ゴールド製の植字インデックスはバーをメインとし、12・3・6・9の4方向の楔形で社章であるマルタ十字を象る。

半球を埋め込んだ小さなドットを含め、すべてのインデックスは完璧な鏡面に仕上げられ、輝きを放つ。大きく余白を残すダイヤル上で、スリムな針が悠々と時を刻む様子が実に優雅。ミニマルなダイヤルと6.79mm厚の薄型ケースは、ドレスウォッチの王道スタイルである。

径40mm。手巻き。18KPGケース。2,618,000円。

ダイヤルとサファイアクリスタルは、緩やかに膨らむドーム状に。その曲面に合わせて針も曲げられている。


【New: 新作】オーヴァーシーズ・トゥールビヨン・スケルトン

透明感豊かな複雑モデルで、海を渡る旅に出かける

ヴァシュロン・コンスタンタンの新作 オーヴァーシーズ トゥールビヨン・スケルトン

メゾン唯一のスポーツウォッチ・コレクションの最新作は、マルタ十字を象ったトゥールビヨンが備わるムーブメントを手作業でスケルトナイズし、透明感豊かに仕立て上げた。さらに残したフレームは、スレートグレーに染められて精悍な印象を高めている。

複雑機構を持ちながらムーブメントの厚みはわずか5.65mm。複雑に積層するパーツが、薄さに中に奥行き感を創出している。ケースとブレスレットは比重が低いチタン製で、着け心地は極めて軽快。付属の2種類のストラップと工具なしで簡単に付け替えられ、印象が変えられる。

径42.5mm。自動巻き。チタンケース。ブティック限定。23,540,000円。

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