「心は動いた?」という台詞にすべてがある。
あるときは気弱なアラサーOLを、あるときは東大出身の頭の固い特例判事補を。あらゆる役に「なりきる」カメレオン俳優・黒木華さん。最新作『先生、私の隣に座っていただけませんか?』では、夫の浮気を目撃、それを責めるでもなくそのままのことを漫画に描き、さらに自分自身を主人公にした恋愛模様を漫画に描き、ジワジワと夫を追い詰めていく漫画家・佐和子を演じている。同じく漫画家の夫・俊夫を演じる柄本佑さんと繰り広げる「心理戦」は、コメディであり、ホラーでもあり。
「佐和子は何を考えているのかわかりにくいところがあるから怖いですよね」と黒木さん。「脚本を初めて読んだとき、漫画と現実を行き来する構成が素晴らしくて、俊夫さんの気持ちになって読んでみると、すごくドキドキするなと思いました。佐和子の復讐心もありますが、彼女の“心は動いた?”という台詞がすべてを表してるんじゃないかなと。
ただ、私は結婚していないので実感が湧きませんが、夫婦って難しいものですよね。結婚したての堀江貴大監督が“結婚したからこそ、不倫に興味を持った”と仰っていたのも面白くて(笑)」
売れっ子漫画家・佐和子としてカラス口を持つシーンも堂に入っている黒木さんは、自身も漫画を読むのが大好きだという。
「少年・青年誌系の漫画をよく読みます。いま楽しみなのは『ダブル』です。演劇界が舞台で、才能があって売れていく俳優と努力家だけど売れない俳優の物語。演劇の友達は周りにいっぱいいるので、他人事とは思えなくて。すごく心が動かされるんです。あと、映画の撮影中、漫画に詳しい佑さんから『ドロヘドロ』と『王様ランキング』を教えてもらいました。むちゃくちゃハマってます」
今年3月で31歳になった。30代になり「頑張りすぎないようになった」黒木さんは、一人旅もできるようになったという。
「コロナ禍になる前、石垣島へダイビングの免許を取りに一人で行きました。朝7時からダイビングスクールへ行って、海に潜って。夕方になると、さて、今日は何を食べようかなと。おいしいものを食べたときに、感動を分かち合える相手がいないのはちょっと寂しかったですが、自分の好きなように自由に時間が使えるのは楽しいものだなって。その後、一人でロンドンへも行きました。舞台を観たり、美術館へ行ったり。海外での一人旅は最初とてもドキドキしましたが、大人になるってこういうことなのかなと思いました」