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仏マンガ『レベティコ−雑草の歌』が待望の邦訳版。1930年代のアテネのブルースに酔う

2009年に発表されたフランスのマンガ『レベティコ−雑草の歌』、待望の邦訳版だ。舞台は第二次世界大戦前夜、ファシズムの影が忍び寄るギリシャ・アテネ。現地のブルース「レベティコ」を奏でるミュージシャンたちの姿を力強く描く。

Edit&text: Hikari Torisawa

世界が歌になる瞬間を目撃する。
1930年代のアテネがここに。

世界が、自由が、音楽になる。1936年のギリシャの日だまりに触れ、海から吹く風に触れられる。『レベティコ−雑草の歌』を開き、絵を見つめ、見つめられ、倦怠とざわめきの中から立ち上がるギリシャのブルース「レベティコ」に耳を傾ける。

酒場で演奏するマルコスと仲間たち
”ハシシ窟”と呼ばれる夜の酒場で演奏するマルコスと仲間たち。

フランス人作家ダヴィッド・プリュドムによるバンドデシネ(フランス語圏のマンガ)の舞台は、ファシズムの影が色濃く落ちる第二次世界大戦前夜のアテネ。吟遊詩人ホメーロスも暮らしたイズミルがトルコに奪還された希土戦争のあと、トルコからギリシャへ強制的に送還されたギリシャ正教徒は150万人を数え、都市のそこかしこにはスラム街が発生していた。

社会の周縁で生きるしかない男たち、女たちは、路上で水たばこをふかし、大麻を吸い、夜ごと酒場に集い来る。港町の暮らしを、辛苦を、刹那の喜びや哀しみの色彩を歌う「レベティコ」がこの物語の主人公だ。

ある秋の日、やくざ者のマルコスが刑期を終えて出所する。髭を剃り、家に帰り、ミュージシャン仲間との再会を祝う。しかし彼らの音楽は「東洋と西洋を混ぜ」「勤勉な労働者たちの風紀を乱す」ものとして検閲され、演奏はおろかブズーキやバグラマなどの楽器を持ち歩くことさえ禁じられている。社会から締め出され、押し潰されそうになる自由は、暗がりにいっとき身を潜め、音楽の中へ逃げ込んで息を吹き返す。

「朝起きたことを夜に歌う」彼らの音楽とともに日が暮れて影が延び、騒々しく夜が更けていき、やがて世界は青く、白く、朝の光に満たされていく。

奏でる者と聴く者の人生をつなげる
現実を歌う「レベティコ」が、奏でる者と聴く者の人生をつなげる。

2009年に発表された『レベティコ』が、10年以上の時を経てようやく日本に辿り着いた。翻訳家の原正人が編集主幹を務める〈サウザンコミックス〉の翻訳出版プロジェクト第1弾。クラウドファンディングでは、目標金額を上回って129%の達成率を記録した。

ここから、これから、世界各地のマンガが翻訳され紹介され、出会いが生み出されていく未来は、どんな色をしてどんな音楽が流れているんだろう。新しい景色を楽しみにしています!