次世代の笑いを担う、元学生芸人たち。大学お笑いサークル出身3組の座談会

学生時代にお笑いやってた芸人さんは昔からいるけど、いわゆる“元学生芸人”って、この数年でポンポンって登場してきたイメージがある。

最初にテレビで取り上げられたのって、オードリーの春日さんがＭＣの『学生HEROES!』（テレビ朝日。2010〜17年放送）じゃない？
2013年に「わらいのゼミナール」っていう企画で大学お笑いサークルで活動する学生芸人を紹介してくれて。俺たちも出たし。

ありましたね。で、より注目されたのが2018年の霜降り明星さんの『M-1グランプリ』優勝。2人とも厳密にはサークル出身ではないけど、高校でも大学でもお笑いをやっていて話題になった。

同時期に『キングオブコント2018』でハナコが優勝して、岡部さんが早稲田大学のLUDO出身で、にゃんこスターとひょっこりはんが同じサークルの先輩だっていうのがわかったりして。

2019年の『M-1』で優勝したミルクボーイさんも大阪芸術大学の落語研究会出身。
去年の王者マヂカルラブリーさんも、村上さんが法政大学HOS時代に全国大会で2連覇してるから、M-1王者が3年連続で学生芸人。あと2020年に上智大学SCS出身のラランドが売れた。

ラランドっていうかサーヤね。ニシダはまだ売れてないから。

（笑）。で、「いろんな事務所に学生芸人がいるぞ」って気づかれて。

今はまだ穏やかだけど、もうそろそろすごい波が来る気がするなあ。

ナイツさんや（南海キャンディーズの）山里さんの世代は、プロへの登竜門として落語研究会に入る感じだった。でも最近はお笑いサークルが人気で、入る時点ではプロになるビジョンを持っていない学生が多い。次第に「続けたいな」と思い始めるというか。

そうだね。俺も気がついたら「どの事務所に行く？」って話をしてた。

そもそも“学生芸人”って関東の大学を中心に育った文化な気がする。よしもとに限っていえば、関西には大学生でも劇場のオーディションを受けてプロになる道があったから。

霜降り明星さんとかそうですよね。大学でアマチュアでお笑いやりながらプロを目指せた。関東にはその受け皿がなかったから、大学同士が繋がって大会を開くしかなくて。

でも、最近は関西でもお笑いサークルが熱いらしいですよ。

そうなんだ。

2017年にナイチンゲールダンスさんがNSCで首席になって、（現役）学生芸人の意識が高まった気が。

よしもと内でちょっとバズったんだよね。ナイチンゲールダンスの1期下の僕らも首席になって、さらに2期下のゴヤも続いたから。

よしもとが「お笑いサークル」って言葉を覚えたのがこのへんだから。

大卒ルーキーの時代が来てるんだよ。トレンドがプロ野球と一緒。

誰か卒論を書いてほしい。

僕たちが1年のときにナイチンゲールダンスさんが4年で、よしもとに行くってわかったときは驚きました。

あの頃は「よしもとには行かないぜ！」みたいな風潮があったんだよな。

サークルって「お笑い好きは人力舎とかマセキ芸能社に行くんだ！」って尖ってる子が運営してるから（笑）。

ヤスさんは日本大学の落語研究会ですよね。50代くらい続いてる。

そう。その55代目。

本当は53代だけど、キリが悪いから勝手に2代進めて55代にした。

歴史ある落研が！（笑）
でもヤスさんが関東の大学お笑い全体をうわーっと掻き回した感じがすごくある。

まあ、日大に入って落研を覗いたら、ほかの大学との交流が全然なかったの。先輩も同期も「俺たちが慶應と一緒に何かやるなんて」みたいな感じで、その自信のなさがちょっと許せなかった。関係ねえだろうがって。

1年生の、入りたてのヤスが。

聞いた話だと各サークルにスパイを送り込んだんですよね。

スパイっていうか、ライブの運営の仕方がわからないと何もできないから、「お前は早稲田に行け」「出身大学は伏せてノウハウだけ持ってこい」って同期に指示を出しただけ。

スパイじゃねえかよ。

で俺は青学に行った。

いちばん華やかなとこに（笑）。

でも早稲田のLUDOはガードが堅かったなあ。潜入できなかった。

LUDOは学生お笑いの中で言うよしもとって感じ。規模も大きいし、スタッフもしっかりしてて小屋もある。そもそも演劇が活発な学校だから、そういう素地があるというか。

強かったしね。

その頃から明治大学の子が文教大学や専修大学のサークルで部員を兼ねたりして獨協大学や東京理科大学にもサークルができた。母数がぐんぐん増えて。

勝手にうちの部室に人を集めて。魔人無骨（令和ロマンの当時のコンビ名）にも「うちに来いよ！」って。

慶應はキャンパスが日吉だから都心から遠いんですよね。日大は水道橋で交通の便もいいし他大学から人が集まりやすくて。ありがたかった。

一橋大学も国立にあるから孤立してたけど、僕は学生お笑い連盟の連盟長をやっていて。
で、4年生の頃によしもとが参入して『NOROSHI』（よしもと主催のお笑い大会）を立ち上げたんだよね。引っ張ってきたのはヤスさん（笑）。

俺は笛吹き男になっただけだよ。

ヤスさん、ずっとダイアゴナルランみたいな斜めの動きをしてたんで（笑）。そのあたりが学生お笑い史における明確な転換期というか。

一時期、お笑い連盟でアベマの番組枠持ってたこともありましたよね。

あったあった。「僕たちは市場価値があります！」って言いながら代理店の人と企業を回ったこともあったし。
ワタナベエンターテインメントもイベントを始めてリクルート感が出てきて。イベントからプロになる道が開けた感じ。

元学生芸人の特徴として、テレビ局とか制作会社とか、エンタメ業界に同級生が多いという利点はあるよね。ADやってる友達が会議で名前出してくれるだけでもチャンスの幅が違う。

慶應とか早稲田は本当に各業界に散らばってる。ヤスさんの同期はほとんど芸人になっちゃったけど……。

携帯電話屋になったヤツもいたなあ。ドコモとかauとか全部売ってる。

ホント最近、どこに行っても知り合いがいる気がする。

ニューヨークさんのYouTubeで「お前ら一生青春やん」って言われたじゃん。確かに一生青春できちゃうんだよなあ。学生時代からの仲間たちと。

楽しいけど、ある意味ヤバいとも思う。だって仕事とプライベートの区切りがないわけだから。立場を失ったらすべてを失う。辞めたら最後というか。

学生芸人っていいことも多いけど、辛い部分もあって。まず基本的にみんな卒業とともに就職するから、相方と一緒にプロに行けないことが多い。

変に高学歴に注目されたりね。

そう！英単語とか歴史のネタとか、インテリネタとして作ったわけじゃないのに伝わらなかったりして。

なかるてぃんは「一橋卒ですよね？」って言われたら、高い声を出してお尻を振り続けるから。

見下せる高学歴を目指したいね。

NSC時代も、作家さんから「仕上がってるね」と褒められるけど、アドバイスはあんまりもらえなくて。

育てる側も原石を磨きたいからね。完成しちゃってると、結果を出さないとサポートしてくれない。

あと、4年間ゴリゴリにお笑い好きの学生芸人の前でネタをやり続けてきてるから、一般の人たちにピントを合わせられなくて苦労する。

新勢力として働きながらお笑いをやる“社会人お笑い”というのもあるから。

ラランドインパクトね。ある意味大罪だよ。サーヤみたいに、社会人でもお笑いやれるかもって思っちゃう。

社会人でお金があるから、自分たちでイベント打って、MC呼んで。

僕たちの学生時代の同期も、卒業して就職して、辞めて芸人に戻った連中がすごい多いんです。

大学を卒業してるっていうのは大きいよね。親御さんも安心するし、ダメならやめればいいわけで。

まあ、今は少数派だけど、学生芸人はもっと増えて当たり前になるから。

そうですね。もちろん高卒で始める人だっているし、お笑いは誰にいつ何時抜かされるかわからない世界。いざってときに強くなってないとダメだから、結局は頑張るしかない。

僕たちもまだ1年目で、まずは大学お笑いから抜け出すところから、って思ってます。

おい、抜け出す必要ないぜ！俺たち永遠に学生お笑いなんだから！

嫌だねえこういう人がいると。