「川内さんは意外と早く描けたね。
髪形が特徴的で、迷うことがなかった」
この日シャッターを切った川内倫子との初対面に、彼女を描いた7年前を振り返る美術家・横尾忠則。東京都現代美術館で開催中の大規模個展を皮切りに、今改めて日本中を熱狂させている。
2014年に設立30周年を迎えたカルティエ現代美術財団の依頼で財団ゆかりの人物を描いたパリの展示も、このたび新作を加え東京へやってきた。描かれた139もの絵は油彩画の技法とキャンバスのサイズこそ共通しているが、実に多彩なスタイルでその引き出しの多さと技術に圧倒される。
「タッチは気分で決めますけど、肖像画っていうのは、その人の表面的なものと内面的なものが似ているかどうかはわからない。似せると似顔絵になるし、そんなこと考えては描けない。絵として成立させるか、その人に似せるかっていうことも必要ないと思う」
完成した絵の数々に目をやれば、自由に筆物の特徴を確かに押さえているように見える。が、財団から送られた資料は写真のみ。会ったことのある人もいれば、見たこともない人も少なくなかった。
「最初にデヴィッド・リンチを描いた時、手が腱鞘炎になって左手で描いた。ちょうど公開してたリンチのドキュメンタリーを横浜まで観に行って、“あ、ぜんぜん違う”って、帰ってまた描いて。結局3枚描いちゃってですね、これを100人やったら死んじゃいます(笑)。
だからそれ以降、一切調べてないです。知ると情報や記憶を選択しなきゃいけないでしょ。何人か知ってる人がいましたけど、好き嫌いで描いていると疲れる。いい顔になるか、ならないかはその人の責任です。気に入られるために描いているわけではないですからね」
子供の頃から絵を描き、描き続け、85年絵描きをやってきたが、仕事は意外にも常に受動的なタイプだという。
「僕は与えられて初めて興味を抱くんです。だから誰を描きたいというのはないね。スランプの時に自画像を描くくらい。もうめんどくさいし、疲れるし、描くのには飽きた。何もしたくないですよ、この年齢で(笑)。
でもこのポートレート展も今になってみれば、楽しかったっていうのかな。これからカルティエ財団で展覧会をやる人を追加で描く、そのくらいのペースがいいかもしれません。いきなり100枚送られてくると、どこから手をつけていいのかわからないですよ(笑)」
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