最近、見かけることが増えたパネットーネ
日本製を集めて食べ比べ
柴田香織
もとはイタリア・ロンバルディア州の郷土菓子ですが、本国でもいま全国的に盛り上がっていて色々な種類が登場しています。日本でも、もっと人気が出てもいいんじゃない?って常々思っていて。でも作るのが難しいんですよね。
佐々木ケイ
数年前、仲のいいイタリアンの日本人シェフに「パネットーネ作ってよ」って頼んだら、「そんな簡単に言ってくれるな!」って怒られました(笑)。
柴田
粉と水からリエヴィトマードレ(発酵種)を作って、それを種継ぎして発酵させる工程を2~3日繰り返す。酵母の管理や発酵の状態によって出来上がりが左右されるから、理想の焼き上がりに仕上げるまで、本当に手間がかかるんです。ぬか床を作って育てる感じに近いですよね。
佐々木
ぬか床!わかりやすい!
柴田
家ごとのやり方があるってところもぬか床っぽい。だからそこで味、香りがさまざまで面白いんです。でも、日本では作り手も食べ手もまだ少数なのが現状。
佐々木
値段が張るし、サイズも大きいですしね。
柴田
パネットーネは大きさが大事。それを少しずつ、みんなで分けて食べるのがおいしいし楽しい。まさに、ソーシャルスイーツだなって。
佐々木
私のパネットーネとの出会いは千駄ヶ谷の〈ヴィネリアヒラノ〉で。クリスマスに店主が2㎏のパネットーネを購入して、それをバレンタインに女性客にサービスするんです。袋を開けたとたん、フワ~ッと凝縮した乳酸菌のような香りが漂って、モスカート・ダスティと一緒に飲むのが最高で。私の中で、パネットーネはお酒のおつまみ。甘口のワインやグラッパと本当によく合う。フレッシュなうちに食べるのもおいしいけど、私は少し時間を置いてから食べたい。
柴田
パネットーネは焼成後、だんだん水分値が安定し、しっとりした状態を長時間キープできます。これは、発酵種に含まれるたくさんの乳酸菌の働きによるものといわれています。
佐々木
乳酸菌が味わいに大きく影響するのは、ワインも同じですね。
柴田
初めて食べるならクラシカルなパネットーネから始めて、食べ進めるのがおすすめ。東京だと〈ピアットスズキ〉が伝統的なレシピを踏襲していますね。
佐々木
生地が繊細でしっとり。表面はサクサクで、このドライリンゴの存在感も効いてる。
柴田
鈴木シェフは、イタリアの大会で最終選考まで残ったほどの腕利き。パネットーネは縦に切って割くようにして食べるんですが、ペリペリッと気持ちよく剥がれる“窯のびがいい”生地がいいパネットーネの証し。焼いたあと、生地が縮まないように逆さに吊るんです。
佐々木
イタリアンシェフといえば、〈フィオッキ〉も。レーズンに洋酒が効いていて、オレンジピールの存在感もいい。
柴田
卵は宮崎県の東養鶏場の卵黄100%、柑橘類は山口県の山本柑橘園のものを使っていて、材料にもこだわりが。1週間くらい置くと、もっと乳酸っぽい香りが強くなって食べ頃になりそう。〈ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ〉の栗とカシスは、和菓子っぽい組み合わせ。
佐々木
生地に酸味がありますね。すごくしっとりして、口の中で溶けていく。食感が軽くてパクパクいけちゃうから、寝かせることなくあっという間に食べ切っちゃいそう(笑)。〈三笠会館〉は生地は、しっかりと甘味がある。
柴田
こちらもクラシカルなレシピで食べやすく、ビギナーズフレンドリーな味わい。
佐々木
焼きたてと1ヵ月置いたものとを食べ比べると、香りも旨味も全く別物。生地は水分が抜ける前のフレッシュの方がふっくらしっとり。時間が経つと、サワー感のある乳酸っぽい香りがすごく芳醇で余韻も長い。
柴田
パネットーネの発酵種は、水分活性を低く抑える働きがあるといわれていて腐りにくい。
佐々木
〈LESS〉の登場もエポックメイキング。シグネチャー菓子にイタリア人シェフが焼くパネットーネを据えていて、通年購入できるという。
柴田
〈LESS〉のパネットーネは、本当にやわらかいし生地の気泡が美しく、フレッシュ感もある。
佐々木
これまでのクラシックとは対照的に、ぐんとモダンに洗練されて、生菓子と並んで選択肢の一つになったのはすごく東京的。
柴田
今後はもっと、異業種の人が作るパネットーネも登場してほしいですね。杜氏が酒種で作ったものとか、日本的だし食べてみたい!
佐々木
大手メーカーの参入も。高品質で手頃なものが増えたら、もっと身近に楽しめそうですね。