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言語学で解きほぐす、2021年の新語・流行語

新語や流行語というのは、日々生まれ気がつけば消えていくバブルのような存在。2021年にも耳慣れない単語をあちこちで耳にした。そんな言葉たちをフィールド言語学者の吉岡乾さんと『ゆる言語学ラジオ』の水野太貴さん、堀元見さんの3人に解説してもらった。言語学の知識を通して考えると、なるほど、第三の眼が開く“まである”。

Text: Ryota Mukai

副助詞や濁音に注目して、
9つの言葉について語らう

水野太貴

社会が変わると、新しい言葉が生まれたり、既存の言葉も見直されることがありますよね。新型コロナウイルス感染症にまつわる単語が聞かれるようになったり。上司とのチャットコミュニケーションが増えて気がついたのは、沈黙や省略を表す「三点リーダー(=……)」の受け取り方が人によって違うこと。

堀元見

句点や読点を連ねて同じように表現する人もいますよね。

水野

個人的に謝罪する時の文末は「……!」が一番丁寧だと思うけど、許せないという人もいて。独自アンケートの結果、40代から60代の半数以上がこれを嫌っていたんです。

吉岡乾

僕は読点の連続は嫌で、少し間を空けたい時には三点リーダーを2個続ける40代です。結局言葉で全部伝えるのは無理で、誤解されても仕方がないと思ってます。

水野

先生がおっしゃると説得力があります。誤解もなにもないと思ったのは、大谷翔平選手を指す「リアル二刀流」。どこがリアルなのかと。

吉岡

どんなニュアンスの「リアル」なのでしょうか。出川哲朗さんの「リアル」ガチなら“正真正銘”くらいの意味ですよね。

水野

“現代の”でしょうか。宮本武蔵を想定して、彼が現代にやってきた、だから「リアル」だと。

吉岡

刀振り回してないけど(笑)。

堀元

「二刀流」が使われすぎて価値が薄れたから、より上位の意味を示すためにつけているのかも。

水野

決まり文句がより派手になっているんですね。

堀元

使われすぎて活用方法が変わるのはよくあることで。「オフライン」もそう。例えば先日、ネット記事のタイトルで見た「U-NEXTでオフラインする方法」。そして、飲み会の場で知り合いが口にした「久々にオフラインすると緊張する」という言葉。「オフラインする」という動詞形が生まれた!と驚きました。

吉岡

事例が2つだけ、というのが引っかかりますね(笑)。携帯電話を携帯と言うように、修飾部分の「オフライン」だけを取って「オフライン飲み会」を指しているだけかも。

堀元

痛いところを突かれてしまいました(笑)。すみません!

副助詞の効果に注目

吉岡

言葉は新たな用法で広まることもありますよね。例えば「〜最高!」を意味する「〜しか勝たん」。「〜しか勝たない」でもいいのに。

堀元

語呂がいいからでしょうか?だから若年層から広がったのかなと。

水野

勝手な妄想なんですが、古文の「しくはなし」に近い成り立ちだと思っています。「及ぶものはない」という意味もほぼ同じ。若い子が使う乱れた言葉ではなくて、むしろまっとうなルーツがあるかもと。

吉岡

「〜まである」というのも聞きますね。物事をやんわり伝える表現で、「意味不明まである」と言うと「ちょっと意味不明」から「完全に意味不明」まで伝えられるんです。

堀元

友達と麻雀をやっている時に「これは自己破産まである」と大袈裟な表現として使いがちです。

水野

なるほど、「〜まである」構文はかなり盛っても許されるのか。

堀元

婉曲表現なら、ツイッター等で見る「〜などする」も。「この単語流行っているなぁと思うなどした」と言えば、マイルドに感じる。

水野

「など」は添加の副助詞だね。

堀元

「ほかにもいろいろあるけど、一部を切り取ってこうした」という添加のニュアンスが和らいだ印象を与えるのかもしれません。

吉岡

ツイッターで検索してみると「〜などする」のほかに「〜したりなどする」という用法もありますね。

水野

「たり」と「など」で、添加まみれですね(笑)。

意味が、拡張する?

水野

既存の言葉の意味が拡張する例に、サウナ好きが使う「ととのう」を。ざっくりした説明ですが、そもそも動詞には中核的なイメージがある、といわれます。これに則れば「ととのう」のイメージのそばに「サウナに入った時のあの感覚」があって、それを呑み込んだ結果、「サウナの感覚」=「ととのう」になったと。意味は説明できないのに聞けば伝わるのが面白い。

堀元

似た事例に「太い」も。ゲーマー界隈では「そうしておく方が無難」くらいの意味で「太い」と言うことがあって。ただこれ、5年ほど前は「丸い」と言われていたんです。かつては「丸い」の中核的なイメージのそばに「無難」があってみんな使ったけど、実はそんなに合ってなかった。しかも後に現れた「太い」の方がイメージに近いぞと、吸収されたんだと思うんです。

吉岡

僕は今初めて「太い」が「無難」を意味すると知ったのですが、あまりイメージが湧きませんでした。単に流行り廃りで単語が入れ替わったのかなという気もします。

堀元

確かにそうかもしれません。「太い」のより広い用法を考えると、「お金持ち」の意味でも使いますよね。「実家が太い」とか。

水野

最新の『新明解国語辞典』『広辞苑』には「太い」に「裕福だ」といった意味はないですね。

吉岡

意味が拡張しているのかもしれませんね。いずれ「親がリアルで太い」と言うと体形の話、と了解されるようになるかもしれません。

堀元

これまたニッチな話で恐縮なのですが、分子ガストロノミーという、科学の知見を借りておいしい料理を作ろうという研究分野について。この専門店に行った時の定番の感想が「口の中が広い」なんです。レポ漫画をきっかけにユーチューバーが使って定着した感じがあります。

単語の印象は音にあり

水野

「ゴン攻め」は正確な意味はわからなくても、とにかく攻めてる感じが伝わる。濁音には、意味が大きくなったり、時には不快感を持たせることも。「ぴちゃぴちゃ」より、「びちゃびちゃ」のほうが雨が強く降っているように感じますよね。

堀元

オリンピック関連だと「ビッタビタ」も「ぴったり」という語の濁音化かもしれませんね。

吉岡

日本語にはその傾向がありますよね。でも実はすべての言語に通用する法則ではなくて、韓国語では「ごろごろ」より「ころころ」となる音の方が動作が大きいとされるそうです。

水野

音もかなり興味深いですね。

吉岡

日本でも近年研究の方法が見出されてきていて、流行りつつあるテーマでもあります。

水野

改めて今回挙がった言葉を眺めてみると、全く新しい単語は少ないですね。むしろ、既存の言葉の変化を考える方が面白い。知れば知るほどかえってわからないことが増えていくのが悩みどころですが(笑)。

吉岡

知識を持てば、身の回りの言葉すべてがネタになりますもんね。

水野

看板を見て「わー」とか言ってテンションが上がる、すごくコスパがいい趣味です。

2021年の新語・流行語

リアル二刀流

今シーズン、ア・リーグのMVPにも選出された大谷翔平選手を指す単語。「二刀流」は投手と打者を兼任することだが、“リアル”とは?

ととのう

サウナ、水風呂、外気浴を経た後に独特な心地よさを感じることを指す動詞。昨今のサウナブームで愛好家以外にも知られるようになった。

三点リーダーを2個並べたもの。書き言葉で、主に文末に使用される。古来の日本語文書には見られない表現で、欧文の翻訳を経て定着した。

しか勝たん

アイドルやタレントなどの推し、食べ物などの名詞の後に用い、それが最高であることを示す。「しか」は「だけ」と同じく、限定を表す副助詞。

ゴン攻め

東京オリンピックのスケートボード競技で、瀬尻稜さんの解説の中で登場した言葉。とにかく攻めてる、という意。

太い

ゲーマー界隈で「無難」である状態を指す。また、パイプの太さから連想して「親に財産がある」という意味を持つことも。

まである

可能性がある、というニュアンスを示す言葉。「意味不明まである」のように使って、強すぎる表現を柔らかくして伝えることができる。

オフラインする

オフライン状態でなにかすることを指す。「オンライン」の使用頻度の増加に比例して「オフライン」を使う事例が増えた結果だと考えられる。

口の中が…広い

分子ガストロノミー料理の味の広がりを表現する言葉。元ネタは「オモコロ」で公開されたナクヤムパンリエッタのウェブ漫画。

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