花を楽しむのに、
花瓶なんて必要あるでしょうか?
ブルーノ・ムナーリっていったいどんな人?
20世紀のイタリアを代表する工業デザイナーで画家で絵本作家。発明家でも文筆家でもあり、モダンな家具や子供のオモチャを作るのが大得意。
そんなムナーリ先生が大の花好きだったことは、意外と知られていないかも?
実は1973年に『UN FIORE CON AMORE(英題:A FLOWER WITH LOVE)』というビジュアル本まで出していて、これがめっぽう面白いのだ。
二十数種類の斬新なフラワーアレンジが、写真と本人のイラストで紹介されている。巻頭ページには「花を楽しむのに、特別な花瓶は必要ありません」というメッセージ。
その言葉通り、いわゆる花器を使ったものは一つもなく、ワイングラスに野の花を生けたり、キッチンボウルに大輪のダリアを飾ったり、真っ白な貝殻の中に真っ赤な花と松ぼっくりを並べたり。
揚げ句の果てには、半分に切ったジャガイモを剣山に見立てて花や小枝を挿すという「なるほど……」なアレンジも。そのダイナミックで遊び心あふれる花飾りは、身内からも「好奇心に満ちた自由人」と呼ばれ続けたムナーリならではだ。
ところで、ジャガイモの剣山や、花と枝と葉っぱでグラフィカルな景色を作る手法には、日本の華道のエッセンスも感じられる。
息子のアルベルト・ムナーリさんによれば、ムナーリは日本の生け花と盆栽に並々ならぬ興味を持っていた様子。
「ミラノの自宅ではいつも花を飾っていた。よくある花瓶などは使わず、思い描いた花の生け方にどんな形や素材の器がふさわしいのか、それを常に考えていたようです。
道端に咲いている、ちょっとした野の草花を数本摘んできて、“こんなになにげない花でもIKEBANAは簡単にできるんだよ”と、子供たちに見せていたことも覚えています。テラスには竹があり、たくさんの盆栽を自分で手入れしていましたね」
ちなみに、ムナーリの本にたびたび登場する「盛り花(水盤に剣山を置いて花を盛るように生ける方法)」は、華道流派「小原流」発祥のスタイルだ。ムナーリは、小原流3世家元の小原豊雲に学んでイタリアに生け花を広めた女性華道家ジェニー・バンティ・ペレイラさんと交流があったから、その影響かもしれない。
「IKEBANAは、身の回りのあらゆるモノから“LOVE”を引き出す芸術。ごくシンプルな花で美しい景色を創り出し、誰かへの愛情や幸せな気持ちを表現することができる素晴らしい方法です」そう語ったムナーリ。
彼の豊かな感性が養われたのは、幼少期を過ごした北イタリア・ヴェネト地方の田園だという。花も木も植物も特別なものではなく、いつもすぐそばにあって生活に寄り添う存在だった。本にはこんな言葉も書かれている。
「キッチンに並ぶグラスや水差しやカラフルなボウルがあれば、高価な花瓶なんてまったく必要ないでしょう。自分自身で新しい生け方のアイデアを見つけるのは、とても楽しいものです。花はあなた自身の心を映す鏡。頑張って!」