「7歳の頃から地元であるブラジル・アラゴアス州の州都マセイオでプロとして音楽を始めました。バーとか学校の卒業式、テレビ局などあらゆる場所で演奏しましたね」
ブルーノの長年の共作者で今回ともに来日を果たしたバタータ・ボーイも、その頃からの相棒だ。
「21か22歳の時に彼と出会い、そこから音楽をたくさん作りました。サンパウロなどと違い、スタジオやライブハウスなど発表する場も多くありません。はじめは録音したCDをスタジオの入口で売りさばいたりしてました」
転機が訪れたのはUKのレーベル〈Far Out Recordings〉との契約だ。
「オルケストラ・ヂ・タンボーリス・ヂ・アラゴアスという地元の素晴らしい楽団が、すでにFar Outと契約していて、私を紹介してくれたんです。音源を送ったらすぐに契約しようとなって。それがきっかけでサンパウロへと行くことにしました」
ブルーノの音楽はこれまでのブラジル音楽に比べると少し異質だ。魅惑的な歌声を聞かせたかと思えば、別の曲ではオートチューンでその声を躊躇なく加工する。どこかから漏れ聞こえてくるラジオのような、ざらざらとした質感の曲もあれば、まるで目の前で演奏しているかのようなピュアな姿を見せたりもする。
その自由さは、まるで自作曲を録りためたミックステープのようですらある。それでも、多くの人を魅了してやまないのはポップな楽曲が理由だろう。その洗練されたメロディはどこから来ているのか。
「(故郷である)ブラジル北東部の音楽は非常に洗練されています。アラゴアスの偉大な音楽家であるジャヴァンやエルメート・パスコアル、そしてルイス・ゴンザーガはすべての人にとって巨匠ですし、ピファーノ(ブラジルの木製横笛)で演奏される伝統音楽もそう。そういうルーツがあってこそじゃないかなと思います」
繰り返されるシンプルなギターストロークやリリックは、アフリカ系音楽に近いところがあるように思えるが、そこは移民大国であり日本の20倍以上の面積を持つ国だ。彼の音楽はより複雑な要素が絡み合っている。
「アフリカ系の人が多いのでその影響はあります。ただ北東部といってもアラゴアスやその隣のペルナンブーコは、(アフリカ系文化の中心である)バイーアの音楽ほどシンコペーションが強くないです。そういったリズムへの鋭敏な感覚は混交によってもたらされています。アフリカ、ポルトガルだけでなく、フランスやオランダ、そしてアラブにまで影響を受けているのです」
とはいえ彼の音楽は、ブラジルの地方音楽にカテゴライズされるものではない。ローファイ・ヒップホップ好きからインディーファンにまで、幅広いリスナーに支持されている。
「フランク・オーシャンなどアメリカのものからテクノまで、なんでも好きです。バタータが流す色んな音楽を聴きながらギターを弾いて、そこからインスピレーションが湧いたり。とにかくサンバやアフォシェーといったすでにある音楽ではないものを作りたい」
伝統に敬意を払いつつ現代の感覚で更新する。健全な新陳代謝を続けるブラジル音楽シーンの中でも台風の目となりつつあるブルーノだが、その飛び切りフレッシュな感覚ゆえ、現在バタータとともに様々なアーティストのプロデュースも手がけているそうだ。このマセイオ出身のコンビから、しばらく目が離せそうにない。
ブラジル音楽シーンの未来の担い手たち
ここからはブルーノがオススメするブラジルのインディーアーティストを紹介。
Caxtrinho『Queda Livre』
Jadsa『Olho de Vidro』
alici『Souvenir』
Nyron Higor『Fio de Lâmina』