人間の性分か? はたまた世の中が悪いのか? ぼやかずにいられないのは今も昔も変わらない。『関西発ラジオ深夜便』のぼやき川柳コーナーは前番組から引き継がれ、25年以上の歴史をもつ大人気企画である。
月3回放送されるのだが、投句者は小学生から90代まで。その数、各回1,500~2,000というから、日々ドシドシと日本全国から五・七・五のぼやきが押し寄せている状態だ。ここ最近、番組で取り上げられた優秀作にはこんな句がある。
2022年のぼやき川柳大賞作品より抜粋
川柳とは「空間の文芸」
日々のお悩みから社会の不条理まで、世の中のペーソスをユーモアに変換するような、ぼやき川柳。長年このコーナーを担当する選者で川柳作家の大西泰世先生に、ぼやき川柳の魅力をお聞きしたい。いわく「最初は、ぼやき川柳がすごく嫌だった」そうだ。
「川柳は笑いだけではないんです。喜怒哀楽がありますから。でもね、ぼやき川柳を長いことやらせてもらっているうちに、世の中にはひとり暮らしのお年寄りがものすごく多いことが分かって。このラジオを楽しみにしておられる方も多いんです。それに、ぼやき川柳の中にも本来の川柳にも劣らない良い句がたくさんあるんです。だからもう大好き(笑)」
川柳とは「空間の文芸」だと先生。つまり「行間を掬い取る文芸。作るのも難しいんですけど、人の句を理解することも難しい文芸なんです。言葉の奥にある人情や心の機微など、時代を超えて変わらないものを感じるものです」。
ぼやき川柳も「17文字、そのままで表してはだめ。それは人参、玉ねぎ、じゃがいもを並べているのと同じです。言葉という素材を使って料理しないと。自分でカレーの味付けをしないといけないわけです」。
ぼやき川柳で選ばれる句、その基準とは?
季語を入れる必要はなく、しかも口語調。と、自由度が高そうに見える川柳。だからこそ大西先生はまず「最低限のルール」を満たす句から選ぶのだそうだ。
「“い”抜き言葉が入っている句は選びません。例えば、“笑っている”を“笑ってる”とするものですね。それに俳句もそうですが、川柳はリズムがとっても大事。例えば、五・七・五の真ん中が8文字になるのは、中八(なかはち)と言うんですけれど、それはリズムがむちゃくちゃになるんですね。先人の句でも字足らずや字余りもありますが、それはあえて。ちゃんと意味があるんです」
「例えば、“風”というお題なら、“風の噂”というような、ありきたりの言葉を使っている句は選びません。大事なのは発想です。人とは違う、ものの見方が重要です。そこはセンス。でもセンスは筋肉と同じで鍛えられるんです。90歳から始めても、うまくなりますもん」
人生の最後の最後までできる川柳
筆者も今回の取材を機に川柳を作ってみたけれど、これがなんとも難しい。番組で選ばれる作品には足元にも及ばないし投句どころの話じゃない。しかし一旦考え始めると、五・七・五の奥深い世界に夢中になってしまうわけで。最後に大西先生が優しく導いてくれた。
「ぼやき川柳って簡単に作れそうでしょ? でも、できない。それがいいんですよ。四コマ漫画と似ていてパッと読めてしまうけど、作者は畳に頭を擦り付けて考えるわけです。でも、入院してベッドの上でも作ることができる。人生の最後の最後までできるんです。歳を重ねるだけで才能が出てくるんですよ。あと、川柳ほどお金のかからないものはありませんよ(笑)」