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増殖し続ける不揃いな棚から、宝探しのようにディグする。神奈川〈古本イサド ととら堂〉

本棚のことは、本のプロに聞くのが一番の近道。そこには蔵書をよりよく見せる知恵が詰まっている。ふらっと立ち寄ったお客さんを思わず惹きつけてしまう、そんな棚に出会える古書店を巡る。

photo: Jun Nakagawa / text: Ryota Mukai

増殖し続ける不揃いな棚から宝探しのようにディグする喜び

不揃いな棚に本がぎっしり。メタボリズム建築を思わせる佇まいだが、あながち間違いではない。棚の9割は自作で、適宜入れ替え・増殖しているのだ。店主の木村海さんは元大工見習い。「図面なんかは引かずに気楽に作っています。楽しいのが一番ですから」。

2022年に作ったという新作はなんと収納可能冊数わずか1。逗子の詩人・高橋睦郎さんの作品を置くためだけのものだ。さらに自作ゆえにかゆいところに手が届く一品も。一見普通の棚だが、棚板が手前に突き出している。

「ここ、“ベロ”と呼んでるんですけど。そこに本を立て掛けたくて。シェイクスピア本の裏には演劇書を、と棚の見出しにしています。手に取れば棚の本も目に入る。宝探しのように本に触る楽しみを感じてもらいたくて」。

店内には流行り廃りのない映画のDVDが並ぶことも。といっても映画棚にではない。『ブルース・ブラザース』ならアメリカの棚、ユーリー・ノルシュテイン監督作なら児童書棚へといった具合にジャンルに沿って収まる。店だからこそ楽しめる、アナログな体験が待っているのだ。

神奈川〈古本イサド ととら堂〉店内
中央・奥のせり出した部分は“ベロ”の初期形態。ここから今の“ベロ”が構想された。