世界最大級の本の街で、懐かしのサブカル散歩。
「神保町なら小学生の頃から、イラストレーターだった親父に連れられてしょっちゅう遊びに行ってましたけど、何か?」ほかの企画を相談していた時、渋谷直角さんがなにげなく漏らしたこの一言から、本屋パトロール・神保町編は始まった。
大正時代以来、世界有数の本の街として知られる神保町。最盛期に比べれば少々目減りしたとはいえ、今も優に100を超える本屋が古書店を中心に軒を連ねている。かつてこの街を闊歩した文豪は江戸川乱歩に司馬遼太郎、植草甚一と数え上げれば軽く十指に余る。本屋特集の街巡りなのに、神保町抜きでは特オチ感は否めない。
そんな時に冒頭の一言である。直角さんなら文豪とは一味違ったパトロールになるはずだ。
magnif(神保町/東京)
店主の雑誌好きが品揃えに表れている。
4軒のサブカル系とも呼べる古書店をセレクトしてくれた直角さん、まず訪れたのは〈マグニフ〉。「ファッション誌やカルチャー誌を中心に扱ってる〈マグニフ〉は最近、必ず立ち寄る店。『ポパイ』にインスパイアされた90年代の雑誌を見つけるのが楽しいし、自分がかつて関わった雑誌の売り値をこっそりチェックしたりも(笑)」でも、自分のサイン本を見つけた時はちょっと凹んだとか。
【パトロールMEMO】
国内外のファッション誌のバックナンバーを中心に、カルチャー誌やグッズ、写真集、単行本、紙モノなどを取り扱う。自身もファッション誌好きの店主、中武康法さんは、取り扱った雑誌の記事のデータ化に取り組む。「あいまいな記憶を頼りに探しに来るお客様の力になれればと思って。でも遅々として進みませんけど」。その志やよし!
くだん書房(神保町/東京)
7割が女性客の古書店なんて、ほかにない!
続いて〈くだん書房〉へ。少女漫画専門という珍しい古書店だ。「昔一度来て以来どうしても辿り着けなくて。今日数年ぶりに来たけど、ここはいろいろヤバそう」生き字引のような店主の藤下真潮さんに教えられた夭逝の漫画家、鷹羽あこに直角さんもぞっこん。「コマ割りが斬新で驚かされた。こんな人がいたんだって感じ」これぞまさに、古書店街パトロールの醍醐味というもの。
【パトロールMEMO】
雑居ビルの3階、上る階段の脇には未整理の在庫が山積みで古書店らしい風情を感じる。「少女漫画に絞り込んだのは2005年くらいから。特徴を出そうと思って、近くのギャラリーで定期的に原画展もやってます。あと、鷹羽あこという60年代の漫画家の遺稿集を年内に復刻しようと動いているんです」と店主の藤下真潮さん。知られざる名店。
そして仕上げは、古書の殿堂・神田古書センター。2階に漫画の〈夢野書店〉、5階に子供向けの本の〈みわ書房〉が入っている。「〈夢野書店〉には小学生の頃から通ってます。といっても、当時は〈中野書店〉という名前で代替わりしたみたいだけど。原画の切れ端とか紙モノを掘るのが好きで、あの頃もよく買ってたなぁ」
今日もどこかで見たような原画の切れ端を持っていそいそとレジへ。最後の〈みわ書房〉では海外の絵本を購入し、パトロール終了。「子供用の絵本はやっぱり楽しい。夢中になって時間を忘れちゃった。あぁ、ビール飲みてー!」
叫ぶ直角さんの視線の先にはビヤホール〈ランチョン〉が。これだから神保町散歩はやめられない。
夢野書店(神保町/東京)
小学生で通った頃の精神が今も息づく老舗。
【パトロールMEMO】
「先代の〈中野書店〉の社長が手塚治虫好きで、趣味で始めたようなものだったんです」と店主の西山友和さんは笑う。当時投げ売りされていた漫画本にきちんと値付けをして古書市で売ったのが始まり。〈中野書店〉は2015年に閉店したが、その漫画部を引き継いだのが、今の〈夢野書店〉。漫画ワンダーランドは健在である。
みわ書房(神保町/東京)
子供の本だけを扱う店だけど大人も楽しい。
【パトロールMEMO】
「先代の喜鶴書房さんが閉店し社員だった僕が引き継いだ時に、子供の本に特化したんです」と店主の三輪峻さん。好立地ながら5階まで足を運んでもらう難しさや仕入れを考えての決断だった。童話から図鑑まで、子供の本は何でもアリ。「うちに来るお子さんは熱心で本をよく知ってるんです」。店主はちょっと自慢げに話してくれた。