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僕の冬支度。〈BOGEN〉デザイナー・小川剛史の場合

生活の拠点を東京から北海道に移した〈BOGEN〉デザイナーの小川剛史さん。スノーライフという言葉がこれほどピッタリくる人もなかなかいない。本人の文章と写真で綴る、冬を目前にしたあれこれ。

Photo&Text: Koji Ogawa

始まりはTからのメッセージ。

「ノルディカエンフォーサーの88か94で悩んでます。笑」。滑り仲間のTから、スキー好きしかわからない唐突なメッセージが届いた。彼はいつもそうだ。元気?とか、ご無沙汰ですとか何もなく、用件だけを短く伝えてくる。

「サロモンのなんとかブランクは買った?」と返信するとすかさず「サロモンのqstblankは186買いました」とレスが。さらに「もう確保しました?」「結構ないですよ」とたたみかけてくる。結局Tは全く別のメーカーのスキー板をもう1組買ったようで、年末年始は北海道にいるので滑りましょうということになった。Tからの連絡は僕の目覚まし時計だ。

シーズンインする前、Tとはいつもこんなやり取り。

昨年末、僕は東京を離れて生まれ故郷の北海道に引っ越した。これからどれだけスキーとともに暮らせるかなって考えて、そろそろかなと思った。およそ30年ぶりの北海道だ。実家の隣町でもあるNという町に家と店を建設中で、今は札幌の郊外に仮住まいしている。考えればこの引っ越し自体が冬支度だ。大げさに言うと、これからの人生で何十回かやってくるだろう冬に対しての支度とも言える。


そんな例年以上にせわしない冬支度の只中にいる僕は今、小樽を出て新潟に向かうフェリーの部屋にいる。東京にある自分の店「スキーショップボーゲン」に向かうためだ。

スキーの面白さを服に乗せて伝える〈BOGEN〉というブランドを始めて丸10年。北海道に引っ越してからもだいたい月に一度のペースで東京に戻っている。今回は店の冬支度ということで、店の改装や商品の入れ替え、秋冬商品の出荷作業などを予定していて、クルマにパンパンに積んだ荷物を降ろして、また店の什器などをパンパンに積んで帰ってくる段取りだ。店のスタッフとご飯を食べながら、冬に向けての話をするのも楽しみのひとつだ。

僕の上京のタイミングに合わせて、わざわざ店に来てくれる滑り仲間もいる。お互いなんとなく連絡したい気持ちになって顔を合わせて雑談するだけなんだけど、これが大事だと思っている。結局スキー以外の話ばっかりして帰っちゃうんだけど、気持ちが冬に向いていく感じがして心地良い。帰り際に「滑りの話はまた今度ゆっくりね」とか言いながら、そんな話はしないし、それでじゅうぶんだ。

唐突だが、順番的に出張の次の冬支度は大根の保存だ。スキーと大根は関係ないが、スキーと暮らしという面では大いに関係がある。建設中の家の横で一足先に畑を始めていて、ほぼ放置状態だったにもかかわらず大根やとうもろこしがたくさんできた。肥沃な大地に感謝である。

とくに大根は思った以上にできてしまって、大根サラダ、大根おろし、おでんと大根消費メニューを繰り返しているが全然減らない。これは保存しかない。帰ったら漬物のやり方を実家の母に教えてもらうことになっている。雪国で暮らすための知恵をつけるのも冬支度のひとつだ。できることが増えていくのはとても嬉しい。

それに関連して、軽トラを買ったことも楽しい冬支度と言える。大根もたくさん積めるし、東京と違って冬は自転車に乗れないので自転車代わりの気分だ。これについてはS君という、N町で農業を営む友人のアドバイスも大きい。「軽トラないとダメっすよ」と。農家の一言は説得力がすごい。もちろんS君は冬の遊び仲間でもある。


スキー好きの冬支度ということで、例えば滑るための体づくりとか、道具の手入れとか、新しいギアの購入とか、シーズン券を買ったとかそういう話をしたかったのだが、全然やってないので恥ずかしくて人に言えない。好きなことを仕事にしてしまった僕の冬支度に仕事もプライベートも区別はなく、だからスキーも大根も同じ扱いで、それこそが僕の理想とするスキーライフなんだときれいにまとめておきたい。

「僕の冬支度」BOGENデザイナー・小川剛史の場合
今年は60本ほどの大根を収穫。とうもろこしも40本ほど。
札幌の友人が経営する〈タイガーモービル〉で購入。スズキ「キャリイ」51TのKU。