儚(はかな)いスーベニアTシャツに思い入れのある人もいる
古布などのヴィンテージアイテムや手描きのドローイング、刺繍によるカスタムの手法を取り入れ、手仕事が加わった物語性の高い服作りで知られる〈Bode〉。Tシャツのイメージはあまり強くないが、実は最近発表するアイテムの中で、Tシャツの型数は増え続けているという。
「私は、例えばレストランのメニューだとか、山のトレイルガイドだとか、目的が限られ、短期間しか残らない運命の下に作られたものに惹かれるの。Tシャツでいえば、おみやげ屋に売っているスーベニアTシャツがそれに当たると思う。決して一生モノという感じで作られてはいないはずのものなのに、ヴィンテージのフリーマーケットに行くと必ず、大切に収集している人たちがいたりする。
その様子を見ていると、すぐ捨てられそうに思えるTシャツも、誰かにとっては思い入れのあるものになるっていうことに改めて気づくことができる。そのパーソナルな思い入れがとてもいいなと思って。そんなわけで〈Bode〉ではよくオリジナルのスーベニアTシャツを作っているのよ」
一見すると、どれもステレオタイプなキッチュさを感じるおみやげTシャツだが、よく見ると一部にビーズやチャームが施されていて、エミリーらしくひとひねりある仕上がりになっている。
そんなスーベニアTシャツのシリーズのマナーに則(のっと)って、ブルータスのために特別なオリジナルTシャツを制作してもらえることになった。テーマは少し広めに、日本と定めた。数ヵ月前に日本を訪れたばかりだというから、そのフレッシュな記憶をTシャツに投影した、エミリーにとっても特別な“自家製”おみやげTシャツとなった。
「富士山の絵は夫がずっと集めている日本の古い本を参考に描いたの。生地に直接絵を描く手法は〈Bode〉でもよくやるけれど、これはかつてインディアナ州のパデュー大学で、4年生になるとコーデュロイパンツに文字や絵をお互い手描きして穿いた習慣にインスパイアされてる。
Tシャツに個人的な記憶を込めるようになったのは、キルトディーラーの友人がいて、“メイン州”と書かれたTシャツをティッシュのように生地が薄くなるまで着続けていたことから。ジュエリー職人でもあったので、シミも付いていたし穴だって開いている。彼はこれを着て旅をしたり、時にはラグのように床を拭いたりさえしていたわ(笑)。
20年くらい着ていたのかな。その彼が亡くなってしまった時に、そのTシャツを譲り受けたの。そんなふうに、とことん気に入って着ていたって感じがするものが好きだから、私たちの作るTシャツもそのように使ってもらいたいと思っているの」
アメリカらしいイベントTも、大人が着られるデザインに
〈Bode〉のTシャツには、ほかにも個人的な記憶を反映したアイテムがある。アメリカらしい慣習をデザインに込めたシリーズだ。
「幼少期にはハロウィンの時期になるとよくパンプキンのTシャツを着ていたのだけれど、あれの大人のサイズってなかなかないのよね。だから女性用や赤ちゃん用まで作って、家族全員で着られるようにしたの。Tシャツって思い出としてとっておく人もいるけれど、だいたいはそのうち捨ててしまうもの。だからこそ、思い出を洗練された形で残そうとしている。
一点ずつ、付いているチャームが微妙に違うクリスマスTシャツも作っているんだけど、毎年同じシーズンに着続けて、クタクタな状態にしてもらいたい。願わくば家族の伝統にしてもらって、“お父さんがこれ着てたわ”っていう話になるような思い出のアイテムになったら最高ね」