ブルーノート(以下BN)に憧れ、渡米した海野雅威。彼がBNと出会ったのはまだ小学生の頃。
まずは何から聴いたらいいですか?
「9歳の時、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのライブをブルーノート東京で観ました。アートのドラムやアンサンブルに感動し、いつか共演することを夢見て、『Moanin'』を聴きながらピアノを一緒に楽しんでいました。同時期のBN作のアートワークは、リード・マイルスによる洗練されたデザインで、音楽同様に今でも影響を与え続けています。『Moanin'』の作曲者でメンバーのボビー・ティモンズのリーダー作もこのアルバムを聴いてから好きになりました」
入門編として12作品を選盤。
「まず、メンバーの組み合わせが素晴らしい。例えば、ピアノのハンク・ジョーンズや、ベースのポール・チェンバースらは、多くの作品に参加していますが、リーダーが代わるごとに、別の側面を出してくる。また、1967年までのほとんどの作品は、ルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオでレコーディングされています。音質はライブの温かみを重視しながらも明晰さがある。
音楽家からも信頼される耳を持ち、つまらない演奏の録音は拒否したそう。そんな緊張感もBNの個性になっていると思います。実はジミー・コブ・トリオの制作が、生前最後のルディさんの仕事になってしまい、僕はルディさんが録音してくれた最後のピアニストなんです。お会いできて、大変光栄に感じています」
『Bass on Top』Paul Chambers Quartet
マイルス・デイヴィスとの共演をはじめ、黄金期のモダンジャズを支えたベーシストのリーダー作。豪快にソロやメロディを弾き、弓で弾いてテーマを取るなど、自由な演奏を聴くことができます。ポール・チェンバースの先輩で、僕の師匠でもある、ピアノのハンク・ジョーンズも参加。初回オリジナル盤LPには、ある曲の演奏終了後に「Yeah! PC!」とハンクのかけた声が入っています。それを聴くために高額なオリジナルLPも買いました。
『Blue Train』John Coltrane
マイルス楽団から一時退団し、表題曲をはじめ、ほぼ全曲自ら書き下ろした楽曲から、気合が感じられますね。コードを細分化し、譜面的には超難解ですが、コルトレーンは時に叫ぶように、ある時は軽やかに歌うように吹いている。洗練された3管のアンサンブルも、サウンドをリッチにしている。このアルバムに参加したトロンボーン奏者、カーティス・フラーのレッスンを受けましたが、自身の演奏を再現してくれて、感極まる瞬間でした。
『A Night at the “Village Vanguard”』Sonny Rollins
この作品の成功から、多くの音楽家がヴィレッジ・ヴァンガードでライブ録音をするようになりました。ロリンズ自体、一人で吹いても成立するほど、豊かな表現力とテクニックの持ち主。それに加え、ドラマーのエルヴィン・ジョーンズとの演奏が、さらにこの作品をスリリングにしている。録音にはエンジニアのルディさんが出張したそう。ロリンズの甥っ子であるクリフトン・アンダーソンは、僕の作品のプロデューサーでもあります。
『Somethin' Else』Cannonball Adderley
アルトサックス奏者のこの時代の代表作。しかし、陰のリーダーはマイルス・デイヴィスです。マイルスが何度もバンドへ誘ってはフラれ続けたシカゴ拠点のピアニスト、アーマッド・ジャマルに本作で弾いてもらいたかったのだと推測します。アーマッドのおはこ「Autumn Leaves」などのレパートリー、そして明らかに彼に影響されたクールな編曲からそれが感じられます。マイルスと共演したジミー・コブから話を聞きました。
『Moanin'』Art Blakey and the Jazz Messengers
とにかく僕にとっては欠かせない名盤。ボビー・ティモンズ作のタイトル曲のほか、バンドの音楽監督を任されたテナーサックス奏者のベニー・ゴルソンが書いた「Blues March」なども演奏されました。この後、ベニーはバンドを離れ、サックスはウェイン・ショーターになりますが、このアルバムが大ヒットしたことで、長年レパートリーとして演奏され続けました。「Are You Real」や「Along Came Betty」も最高!
『The Scene Changes: The Amazing Bud Powell, Vol.5』 Bud Powell
ピアニストのバド・パウエルは、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーと共に、ビバップというジャズの言語を作り上げました。そこにポール・チェンバースとドラムのアート・テイラーという当時のBNオールスターズが勢揃いした名盤。たまりません。美しいメロディの「Cleopatra's Dream」が素晴らしい。ジャケットに写る子供は、いつもライブを覗いていた息子のアール・ジョン・パウエルさんで、僕の友人です。
『Blowin' the Blues Away』Horace Silver
本来ジャズ・メッセンジャーズは、ピアニストのホレス・シルヴァーが立ち上げたグループ。実はこちらが本家なんです。ですから、全曲オリジナル、管楽器が2本という基本構造は共通しています。ホレスはいろいろな曲を熟知し、引用しながら曲を作るユーモアの達人ですね。「Sister Sadie」や「Peace」など、メロディがキャッチー。トランペッターのブルー・ミッチェルらが参加したバンドアンサンブルもファンキーで歌って踊れる作品。
『Good Deal』The Three Sounds
同じメンバーで長年、活動したバンド。ジャケットから仲の良さが伝わってくる。パーマネントグループならではの、阿吽(あうん)の呼吸ともいえる演奏が聴ける。ピアニストのジーン・ハリスのダイナミクスのある演奏。強と弱の間にある音を、バラエティ豊かに表現し、演奏に抑揚をつける。この人ほど、楽器の特性を熟知し、フルに生かし切っている人はいないかも。エンジニアのルディさんは3人の演奏が大好きで、仕事を忘れて踊っていたそう。
『Soul Station』Hank Mobley
ハードバップの王者であるテナーサックス奏者を忘れてはいけません。数ある名盤から、こちらを選んだのは、ジャズミュージシャンにとって必須である「This I Dig of You」が収録されているから。モブレーのオリジナル曲で、流れるようなウィントン・ケリーのピアノ、モブレーのソロがどこまでも美しい。これを引き立てているのがポール・チェンバースのベースとアート・ブレイキーのドラム。2人の組み合わせは珍しいけど味わい深い。
『Leapin' and Lopin'』Sonny Clark
ハードバップの王者であるテナーサックス奏者を忘れてはいけません。数ある名盤から、こちらを選んだのは、ジャズミュージシャンにとって必須である「This I Dig of You」が収録されているから。モブレーのオリジナル曲で、流れるようなウィントン・ケリーのピアノ、モブレーのソロがどこまでも美しい。これを引き立てているのがポール・チェンバースのベースとアート・ブレイキーのドラム。2人の組み合わせは珍しいけど味わい深い。
『Go!』Dexter Gordon
ヨーロッパで活動していたテナーサックス奏者が、久々にNYへ帰還。ピアノにソニー・クラーク、ドラムにビリー・ヒギンズ、ベースにブッチ・ウォーレンというBN自慢のお抱えリズムセクションと共演。1曲目の「Cheese Cake」から、デクスターが朗々と吹いていて、もう大好きですね。彼の大柄な体格から生み出される、おおらかな音楽に心奪われる。後に、映画『ラウンド・ミッドナイト』(1986年)に主演しました。
『The Sidewinder』Lee Morgan
多数のBN作品に参加したトランペット奏者のリーダー作。ファンキーなリズムの表題曲が“ジャズロック”と呼ばれ大ヒット。これにより以降BNは似た作風を1曲目に収録することを決めたほど。作曲家としてもブルースを踏襲し、ブラッシュアップしたパワフルな曲が耳に残る。ベースのボブ・クランショウさんと一緒に演奏した時、リズムの解釈が新鮮で勉強になりました。時代を変える人は発想が柔軟なんですね。