Love

【珍奇の現場】植物探検家・長谷圭祐さんのスリランカ珍奇植物探訪

珍奇植物、珍奇昆虫、珍奇鉱物などの「珍奇シリーズ」の編集を担当する川端正吾さんが、そのビザールな現場からホットな情報を発信!第7回の今回は、植物探検家・長谷圭祐さんのスリランカ・熱帯雨林調査の様子をお届けします。

artwork: Keiji Ito / photo: Keisuke Hase / text: Shogo Kawabata

連載一覧へ

本誌の「珍奇植物」特集でもおなじみの植物探検家・長谷圭祐さんがスリランカの熱帯雨林へ。固有種の宝庫として知られるフィールドで見たものとは!?

スリランカ シンハラジャ国立公園内の渓流
スリランカ シンハラジャ国立公園内の渓流。

川端正吾

スリランカというと、自然が厳格に保護されている国、っていう話をまずよく聞きますけど、実際どうでした?

長谷圭祐

自分が行ったのは主にシンハラジャという国立公園です。スリランカって、北の乾燥エリアと南のジメジメエリアに分かれていて、いわゆる熱帯雨林は南西部にしかないんですよ。その熱帯雨林のメインとなるのがこの公園です。入ること自体はふつうに国立公園なんで、入場料を払えばOKなんですけど、絶対にガイドを1人つけて入らなきゃいけなくて。

まあ、これはガイドというよりは監視人ですね。特にそれ以外はフィールドでは変わったことはなくて。ただ、帰国のとき、飛行機に乗る直前にアナウンスで呼ばれて大勢の職員に囲まれて、全部荷物開けられて(笑)。渡航前に、同じエリアに何度か行くと目をつけられる、って言われてたんですけど、ホントなんだな、って。もちろん何も採ったりしてないので、ふつうに帰れましたけど。

川端

固有種もめちゃめちゃ多し、古くから自然保護に力を入れている国ですもんね。そんなスリランカには、今回どんな植物を探しに?

長谷

固有種のクリプトコリネ、とりわけボグネリ(Cryptocoryne bogneri)を見られたらいいな、と思っていたんですよねぇ。スリランカの保護種に指定されている種の一つで、ヨーロッパの研究機関くらいしか持っていないので、その自生地を見たいな、と。まあ、数十年前の調査時点で数カ所、かつ数株しか残っていない、最も絶滅に近い種とされていただけあって、タイプ標本が採取されたエリアを中心に結構探したんですけど、見つからなくて。その後、聞いた話だと、タイプ付近の産地はもうなくて、別の場所に少し見つかっているだけのようです。今度調査をするとかしないとか

他に、ボグネリによく似ているというスワイテシー(Cryptocoryne thwaitesii)という種類はぎりぎりで見つけられたんですが、これは日本でも流通していて。なぜかボグネリだけがダントツで栽培が難しく、ぜんぜん流通がないんですよねぇ。

世界最小の木生シダ、アルソフィラ シヌアータ
世界最小の木生シダ、アルソフィラ シヌアータ。

川端

ボグネリを探しながら、他に見かけた魅力的な植物はありましたか?

長谷

世界最小の木生シダであるアルソフィラ シヌアータ(Alsophila sinuata)は、これも固有種で、今回、ボグネリと並んでメインで見たいものの一つだったんですけど、それが見られたのは嬉しかったですね。風変わりな単葉のヘゴで、シダ好きとしてはかなり興奮しました。

長谷

綺麗系だとポトス レモティフロルス(Pothos remotiflorus)。木に登って成長する、いわゆる“クライマー”と呼ばれるサトイモ科の仲間です。赤い葉のものはボルネオなどで見かけるんですけど、白い脈でここまで美しい種があるのは知らなかったですね。

長谷

あと、ラゲナンドラ属。バングラデシュに1種、インドに6種、スリランカに9種あるんですが、僕の普段の行動範囲だと見られないものなので、見ておきたくて。なんだかんだ3〜4種は見られましたね。中でも、ラゲナンドラ オバタ(Lagenandra ovata)は花の造形が奇妙で面白かった。写真では見たことがあったんですけど、実物はホント、なんとも形容し難いユニークな形で。これは珍奇植物だなーと思いましたよ。

ビワモドキ科
ビワモドキ科は11種中、7種がスリランカの固有種。

長谷

マニアックなところだと、ビワモドキ科のアクロトレマっていう草本の属があって、インドネシアとかマレーシアとか、広範囲でよく見るんですけど、それらは全部コスタタム(Acrotrema costatum)っていう一種なんです。なので、僕は1属1種くらいのイメージでいたんですけど、スリランカには結構いろんなのがいて。あとで調べたら全11種のうち7種がスリランカの固有種でした。

スリランカ固有のネペンテス ディスティラトリア
スリランカ固有のネペンテス ディスティラトリア。

長谷

ネペンテスも固有種があって、ディスティラトリア(Nepenthes distillatoria)っていう。めちゃ普通の見た目ですが、リンネの分類になってから最初に記載された種だそうです。

スリランカって、インドへの足がかりでもあるので、大昔の、それこそ大航海時代のころから人が入って調査されてきた歴史がある場所で。リプサリスなんかもあるんですけど、これが初めから自生していたのか、人が持ち込んで帰化しちゃったのか、今やもうよくわかんない感じになっていたりするみたいですね。

川端

スリランカは植物だけじゃなくて、昆虫もユニークなものが多いですよね。なにか植物を探しながら見かけました?

長谷

なんか見たこともないゴキブリがいましたね。愛敬ある顔のあるやつ。帰ってきてネットでいろいろ調べたんですけど情報が出てこなくて、気になってます。あとは蜂擬態のカナブンとか。これ写真で見ると、まぁ、カナブンなんですけど、現地で見ると、『あれ?ホントに蜂?』ってくらい蜂に見えるんですよ、不思議なことに。あと、青いテングビワハゴロモみたいな虫もカッコよかったなぁ。

川端

お目当てのボグネリは出会えずとも、実り多いスリランカツアーでしたね。

長谷

まぁ、ぼちぼち(笑)。

連載一覧へ