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【珍奇の現場】もっと知りたい!「フォーダイト」マニアックス

珍奇植物、珍奇昆虫、珍奇鉱物などの「珍奇シリーズ」の編集を担当する川端正吾さんが、そのビザールな現場からホットな情報を発信!第7回の今回は、2023年の「珍奇鉱物」特集でも取り上げた、「フォーダイト」のこぼれ話をご紹介します。

artwork: Keiji Ito / photo: Takashi Tanida / text: Shogo Kawabata

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12月5日に「珍奇鉱物」特集の#1と#2が合体したムック「合本 珍奇鉱物」が発売されたということで、今回は#2の「自動車工場から産出した宝石たち」で紹介した「フォーダイト」のこぼれ話をしたいと思う。

フォーダイトとは自動車メーカーの塗装工場に堆積した塗料の塊のことで、これを研磨するとマーブル模様になることからアクセサリーの材料として宝石のショーなどで取引されている。

このフォーダイトの取材をさせてもらったのは愛知県でジェムのルースや原石を扱う老舗〈ジェムエイコー〉。こちらの代表の谷田 崇さんに、取材の際に見せてもらったのが、カットや研磨する前のフォーダイトの巨大な原石(?)の写真だ。2020年のツーソンショーの時に撮ったものだそうで、近年こうしたフォーダイトの塊が売られているのをほとんど見かけなくなっていたところに、ひさしぶりに出会ったそう。

「かなりのフォーダイトマニアがオーナーの専門店で、フォードとか、コルベットとか、ジープとか、産出した自動車メーカーごとに販売しているんです。その店主はフォーダイトの色を見れば年代と車種も鑑定できるほどでした。この日はありませんでしたが、車だけでなく、ハーレー・ダヴィッドソンのフォーダイトもあるそうですよ」

こうした塗料が分厚く積層するのは、塗装工場の壁や床ではなく、そこから流れ落ちていく排水溝の中なのだそう。たしかに写真の塊からは排水溝から剥がしたような形をしているのが見て取れた。

排水溝から剥がした痕跡の残る塊。

「実は、こうした大きな塊でも、削ってきれいなルースにできる部分はごく一部なんです。塗料と塗料の層の間にすき間がかなりたくさんできていて、どうしても層が剥がれてしまったり、すが入ってしまうので。でも、硬度自体はさすが車の塗料だけあってしっかりと硬い。私も研磨したことがあるんですが、とても加工しやすく、綺麗に磨けました」

また、フォーダイトといえば、自動車産業の象徴的な街・デトロイトが産地というイメージだが、専門店の店主の話によるとその多くはメキシコ産だったという。

「彼の話では1970年代、アメリカの自動車メーカーはあまり公にはしていなかったそうなんですが、車体塗装の多くをメキシコの工場でしていたらしく。フォーダイトもメキシコ産のものが多いらしくて。そう言われてみると、たしか自分もメキシコに近いツーソンショーでは過去にフォーダイトをたまに見かけましたが、デトロイトに近いデンバーのショーではこれまで一度も見たことがないな、と。デトロイト産のものもまったくないわけではないそうですが、ホントに古いものらしく、かなり稀少だそうです」

そんなフォーダイトが日本に入ってきたのは、今から約30年ほど前のこと。〈レインボーシリカ〉なる天然石として入ってきたというから驚きだ。

「地下から掘り出された虹色のシリカ、みたいな感じで最初は売られていましたね(笑)。そのころネットの情報も何もなかったんで、みんな信じてて。それからしばらくして、積層した塗料である〈フォーダイト〉として図鑑に紹介され一般的に知られるようになったんです。うちでは、25年くらい前に、フォーダイトでアメ車のシフトノブを作りたい、っていうお客さんからオーダーがあって探したのがきっかけでした。

そんな〈ジェムエイコー〉のフォーダイトが、2023年12月27日〜2024年1月24日まで代官山 蔦屋書店で行う「FINE MINERAL BOOK FAIR」で販売される。「合本 珍奇鉱物」のほか、先日、この連載でも紹介したドイツの世界的コレクター、ファビアン・ヴィルドファングのコレクションをまとめたアートブック『The Wildfang Collection : Where Minerals Meet Art』、そして、珍奇鉱物特集でお馴染みの〈PEANUTS MINERALS〉 と〈USK MINERALS〉の標本の販売も行われる予定だ。

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