ガラスケースの中に魅惑のジャングルを作る。熱帯雨林の宝石たちを狙い、若きプラントハンターが行く

ガラスケースに植物を収めて栽培する、新しい楽しみ方がある。メタリックな光沢や派手な迷彩柄など個性豊かな表情を見せ、「熱帯雨林の宝石」と呼ばれる植物群。ケース一つあれば、こんな魅惑のジャングルを作り出すことができるのだ。

photo: Junzo Hongo, Keisuke Hase / text: Shogo Kawabata

今、愛好家たちの間で熱い盛り上がりを見せている熱帯雨林の植物たち。こうしたガラスケースでの園芸は関西発の植物カルチャーだ。古くから熱帯魚趣味が盛んな土地柄で、水草を専門とするプラントハンターが数多くいたためだが、それはアクアリウムの世界の話。園芸とはまったく関わりのない世界のことだった。

この両者が結びつく大きなきっかけとなったのは、まるで人工物のような迷彩柄をまとった植物、アグラオネマ ピクタム“トリカラー”だ。ハンターたちが水草採取のついでに、少し水辺から離れた場所に生息する陸生のアグラオネマなども採ってくるようになり、しかも迷彩柄のパターンが産地により大きく異なることがコレクター心をくすぐり、一気に火がついた。

これらは常にジメジメとした高湿度の環境に育つ植物。ケースの底に水分を含んだ水苔を厚めに敷き、高湿度を保つ必要があるのだ。

こうした熱帯雨林の植物を扱うイベント『ボーダーブレイク』は開場前から徹夜組ができるほどの長蛇の列となる人気となっている。主催するのは長谷圭祐さん。“まだ見たこともない植物”を持ち帰ってくれる、と、愛好家たちからの信頼が厚い、まだ弱冠24歳の若きプラントハンターだ。

プラントハンター 長谷圭祐

「プラントハンターの人にも、2タイプの方がいて。1つはどんな植物があるか資料などでしっかりと狙いを定めてから現地へ行く人。もう1つは、まだ誰も行っていない場所へと行く人。僕は後者で。かなりギャンブル的なところもあるんですけど、やっぱり見たことのない植物を探し当てたいから」

とはいえ、闇雲に未踏の地へ赴くのではもちろんない。プラントハンターならではの“嗅覚”を働かせて、目的地を絞っていく。

「これは本当に感覚的なところなので、言葉で説明しづらいのですが、“環境を狙っていく”という感じ。面白そうな場所があると、まず資料や論文をあたってみる。あまり情報のない場所だとわかったら、Google Earthで空撮画像を確認。緑の濃さなどを見てるうちに、この場所のこの標高へ行って、僕の思い描いている環境が出てくれば、必ず何かあるはずだ、とピンとくるところがあるんです」

Google Earthは、地図より更新が速く、最新の現地の様子を知るには最適。プラントハンター御用達のツールだという。実際、地図では森だったはずの場所が、行ってみたらすっかり畑になっていた、ということもよくあるという。現地に行ってみないとわからないことは山のようにある。

「インドネシアのシベル島に行った時は、本当にキツかった。ここは石器時代からあまり変わらない生活をしている裸の先住民が住んでいる島。それはガイドブックにも載っていたので知っていたんですけど、島全体が泥沼で乾いた場所がないことは知らなかった。歩くと膝くらいまで脚が埋まってしまう。3日間ほどジャングルを歩き回ったのですが、アレは一番しんどい思い出かもしれない」

シベル島のジャングルには、もちろんホテルなどないので、現地の人々の家に泊めてもらいながら3日間を過ごした。

「シベル島もジャングルの外には先住民以外の人も住んでいるので、港にいる人に声かけてガイドを頼んだんですよ。みんなわりとのんきに暮らしてるから、結構引き受けてくれるんですよね、突然の依頼でも。そのガイドがジャングルの中で、先住民の人と交渉してくれて、泊めてもらいました。当然、トイレはないから、森ですませるし、風呂も川。泊まった部屋の天井には猿の頭蓋骨がたくさんぶら下がってましたね。なにかのおまじないだったのかな。

でも、先住民の人たちは親切で、次の日泊まる家も紹介してくれて。どの家にも木をくりぬいた大きな音を出す道具みたいなのがあって、それをコンコンコンコン!とモールス信号みたいに叩くんですよ。“次泊まる家に連絡するんだ”とか言って。おいおい、そんなんで大丈夫か……と思ってると、遠くからコンコンコン!と返事が響いて。そうやって3軒の先住民の家を渡り歩きました。おかげで、これまでアグラオネマ ピクタムの分布域になっていなかったシベル島で、ピクタムを初めて発見することができた。こういう新しい発見があるから、やめられないです」