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BIKEPACKING DIARY in Alaska Vol.06:時の異次元空間

ちょっといい自転車を手に入れてから、どっぷりと自転車にハマってしまった編集者が、北海道やニュージーランドへの一人旅を経て、次なる地へと旅立った。漕いで、撮って、書いて、を繰り返した42日間のバイクパッキング。これは、大自然アラスカの中でペダルを漕ぎ続けた冒険女子の記録である。

photo & text: Satomi Yamada

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Day 14
2023.08.30 wed.
Tonsina - Blueberry Lake

朝、目を覚ますと雨が降っていた。けれど、電波が悪くて天気予報を調べられない。悪天候のなか無理に進むのは好ましくないが、この場に停滞したところで雨はやまないかもしれない。

それに、この近くにはお店がないから、留まれば食料が足りなくなる。よし、準備をして出発するか。自分を奮い立たせ、テントから這い出る。

朝食を済ませ、荷物を自転車にくくりつけてキャンプ場を出る。走り出すと、次第に雨脚は弱まってきた。よかったとホッとするも、それから30分も経たないうちにまたパンクした。

もうずっと穴の開いたタイヤチューブを取り替えられないまま、何日間も走り続けている。

マッカーシーへ向かうことは、とっくに諦めていた。穴だらけのタイヤで未舗装路に入るのは無謀過ぎるし、むこうにも自転車用品を扱っているお店はまずないだろう。

そうなると、もし運良くたどり着けたとしても、帰ってこられる保証はない。だから、一縷の望みだったグレナレンの小さな町でチューブを買えなかったとき、行き先を変える決断をした。

左に曲がればマッカーシーへ続く道との分岐点。泣く泣くハンドルを右へ切った。

マッカーシーを諦めたいま向かっているのは、バルディーズという港町。ここから舗装路で行ける唯一の町だ。

一本道だから迷う心配はないけれど、もうすっかり電波が入らないので、Googleマップは使えない。音楽もラジオも聞けないし、外界の情報から完全に遮断されている。

いまどこにいて、あとどのくらい走るかわからない。そうなると、時間感覚がまるで変わってくる。時の異次元空間にいるみたいだ。

朝に出発した場所から90km先にキャンプ場があるはず。その情報だけを頼りに、ひたすら漕ぎ続ける。

アラスカのハイウェイでは、大規模な工事をたびたび見かける。これは、リチャードソン・ハイウェイにて。

どれくらい走っただろうか。しばらくすると道路工事をしている現場に出くわした。

誘導員に止まるよう指示される。「この先は工事中だから、自転車は通れないよ。パイロットカー(*1)に乗って」と言われ、荷台に自転車を載せ、助手席に座った。どのくらい移動するのか尋ねると、5マイル(約8km)ほどだという。

いざ車が走り出せば、なんと快適なことか。いとも簡単に山道をスイスイと上っていく(車だから当たり前なのだけど)。

せっかくここまで自分の足だけで来たのに、と口惜しくありつつも、どこかで安堵している自分もいた。そのことがまた悔しくもある。でも交通ルールなのだから、従わざるを得ないし。そうなんだけど、でもやっぱり……。と、ひとり胸のうちで感情が入り乱れる。

運転してくれたマイクはいいやつで、束の間のドライブは結果的にいい休憩になった。工事の終点で降ろしてもらい、そこからまた自分の足で走り出す。

車でだいぶ坂道を上ったけれど、それでも上り坂が容赦なく続く。具体的な走行距離が見えないからか、漕いでも漕いでも進まない感覚に陥る。

(あとどのくらい走るんだろう。今日中にキャンプ場へ着けるのかな……)

相変わらず空模様は不安定で、雨は降ったり止んだりしている。気温はだいぶ低く感じる。天気すら味方をしてくれない。車に乗せられて悔しいなんていう思いはどこへやら、終わりの見えない山道になかば泣きそうになっていた。

自分の足で上った山頂で見る景色は格別。このあたりではワーシントン・グレイシャーという氷河も見られる。

それからまたどのくらい走ったかはわからないけれど、車が何台か停まっている駐車スペースが見えた。上がってみると、どうやらそこは頂上のようだった。ということは、もう少しでキャンプ場があるはず。

しばし山頂の景色を眺めて気分転換し、一気に坂を下った。最悪な状況に、ようやく終わりが見えた。と、このときは信じていた。

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